「ポスト安倍」に菅官房長官が急浮上する事情 安倍首相の気力が低下、高まる菅氏への期待

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与党内では当面、9月上中旬と想定されている党・内閣人事と、その後の解散総選挙の可能性も視野に入れた実力者間の駆け引きがお盆前後から本格化するとみられている。

もちろん、「すべては安倍首相の意向次第」(官邸筋)だが、政府部内からは安倍首相の気力や体力を不安視する声が漏れてくる。GoToトラベルが始まった7月下旬の4連休以降、休日に出勤してもごく短時間で、平日でも半休で済ませるケースが目立っているからだ。

これとは対照的に、菅氏はメディア各社のインタビューに積極的に応じ、各省庁の夏の人事を差配することで霞が関も掌握した。「政権運営の表舞台と裏舞台の両方を仕切る状況」(政府筋)を作り出している。ここにきて、与党内で「ポスト安倍は菅氏」との声が急増しているのも、「菅氏の意欲的な動きへの評価と期待」(自民長老)からとみられている。

狙いはポスト安倍のキングメーカー

菅氏は2日のNHK番組で、司会者から「次の人事でも政権の骨格は維持されるのでは」と水を向けられると、「首相の判断で、私の立場で言うことはない」と煙幕を張り、ポスト安倍に名前が挙がることについても「来年9月の話。早過ぎるし、私は(ポスト安倍など)考えたこともない」とかわした。

政界の一部でなおも取り沙汰される今秋解散説については、「これも首相の専権事項」としながらも、「現状からは、まずコロナ対策に全精力を注ぐべきだ」と否定的見解を強調した。早期解散に反対する公明党と太いパイプを持つ菅氏だけに、「あえて首相の解散権を縛るような発言」(閣僚経験者)をした格好で、政界の注目も集めた。

こうして、従来の守りの姿勢をかなぐり捨てる形で政権運営の前面に出てきた菅氏だが、GoToトラベルに異を唱えた小池百合子都知事との感情的対立は収まりそうもない。7月の4連休に観光業を後押ししたことが、全国的なコロナ感染拡大につながったかどうかは、8月5日前後には判明するとみられている。

政府は5日にコロナ対策の有識者会議や専門家による分科会を開く予定だが、その時点で全国の感染者数が過去最多を大きく更新すれば、お盆休みの移動や外出の自粛要請が必須となり、GoToを主導した菅氏への風当たりが強まりそうだ。

菅氏はそもそも、「危機管理も含めた守備力が持ち味で、大向こうをうならせるような弁舌や行動は不得意」(政府筋)とされてきた。ここにきてのテレビ出演も「ガードの固さばかりが目立ち、スポークスマンとしては落第」(有力コメンテーター)との厳しい評価もある。

「安倍首相にとっての魔の8月を菅氏がどう切り回すかが、菅政権誕生の可能性を占うカギになる」(菅氏周辺)とされるが、「菅氏の本当の狙いは、ポスト安倍以降のキングメーカー」(細田派幹部)との見方も根強い。

菅氏が「政界の師」と尊敬する故梶山静六元幹事長は、「大乱世の梶山」と評された。現在の状況はまさに「大乱世」と見えるが、「調整型の菅氏は平時向きで、乱世は不得手」(自民長老)との評を覆せるのかどうか。菅氏にとっても正念場の8月となるのは間違いない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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