三菱自、ゴーン改革の拡大路線で背負った代償 欧州縮小で東南アジアに「一極集中」の賭け

拡大
縮小

三菱自の地域別の収益構造はいびつで、東南アジア以外ではほとんど稼げていない。実際、三菱ブランドが浸透して販売シェアが高い東南アジアでは2019年度に600億円超の営業黒字を確保した一方、主要市場である北米や欧州、日本では100億~200億円程度の赤字を計上した。

欧米は現地工場を持たないために価格競争力が弱く、北米などではブランド力の乏しさを補うための値引き販売の費用増加が収益を押し下げた。競合他社に比べて少ない経営資源を不採算地域にも分散させた結果、「主力のASEAN向けの投資資源が不足」(加藤CEO)するといった悪循環に陥った。

環境規制が重荷、欧州から段階的に撤退へ

そうした失敗を踏まえ、主力の東南アジアに経営資源をさらに集中させる。新中計では、現地ディーラーの新規出店を強化するほか、SUVやピックアップトラックなどの新型車を相次いで投入する計画を示した。ベトナムでは新工場の建設も検討する。そうした施策によって、タイ、インドネシアなど東南アジア主要4カ国の合計シェアを現在の10.6%から11.4%に引き上げる構えだ。

その原資は、不採算事業の縮小や人件費の抑制で賄う。ターゲットになったのが欧州だ。新型車の投入を凍結するほか、広告宣伝費を大幅に削減して東南アジアに振り向ける。今後は現行モデルの販売とアフターサービスは当面継続するが、段階的に販売を終了していく。最終的には販売から撤退することが濃厚だ。

欧州では2019年度に21.5万台を販売。世界販売(112万台)のおよそ2割を占め、地域別では東南アジアに次ぐ販売台数だった。にもかかわらず事業再編の対象になったのは、欧州で強化が進む環境規制が背景にある。2021年から新車の二酸化炭素排出量を走行1キロメートル当たり平均で95グラム以下にしなければならない規制が導入され、未達成のメーカーには罰金が科される。

東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストの試算によれば、三菱自は現状では規制を達成できず、年間200億~300億円程度の罰金を支払うことになる。規制が始まれば、ただでさえ低収益のところに、さらに重荷がのしかかる。規制は今後もさらに強化されていく予定で、三菱自は規制への対応にかかる開発費用の負担に見合う収益を上げられないと判断したようだ。

ホームマーケットの日本も聖域ではない。生産子会社の「パジェロ製造」(岐阜県)が運営する完成車工場を2021年上期にも閉鎖。輸出向けのみに続けてきた大型スポーツ用多目的車(SUV)「パジェロ」の生産は終了、「アウトランダー」などほかの車種は岡崎製作所(愛知県)に生産を移管する。自動車工場の稼働率の採算ラインは一般的に8割前後と言われるが、工場閉鎖によって国内工場全体の稼働率を2022年度には83%(2019年度は76%)まで引き上げる見通しだ。

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