鉄道とホテルの二重苦、西武の「現状打破」戦略 「ピンチはチャンス」後藤社長が描く将来像

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有料着席列車、いわゆる通勤ライナーの今後については2つの見方がある。テレワークが進むと電車の中で仕事をする人が増え、需要が増えるという見方と、時差通勤が進んで通常の通勤列車でも座れるようになり需要が減るという見方だ。

横長のロングシートと特急タイプのクロスシートの両方に座席を転換できる40000系車両(撮影:尾形文繁)

後藤社長は、「両方考えられる」と言う。西武は横長のロングシートの座席を特急列車のようなクロスシートの座席に転換できる40000系という車両を2017年から導入しているが、こうした通常の列車と通勤ライナーの両方に使える列車をこれからも投入していきたいという。

としまえん跡地はどうなるか

西武HDの今後で注目されるのが、8月末で閉園する「としまえん」のその後の活用方法だ。東京都はとしまえんを中心としたエリアを防災公園にする計画だが、一部のエリアに民間のスタジオツアー施設の開設が検討されている。

6月12日にワーナー・ブラザースの日本法人と都、練馬区、伊藤忠商事、西武HDの間で覚書が締結された。どのようなスタジオツアーになるかは明らかにされていないが、ワーナー・ブラザースはロンドンで「ハリー・ポッター」のスタジオツアーを行っていることを考えると、としまえん跡地がハリポタのスタジオツアーとして生まれ変わるとみてよいだろう。

後藤社長も昨年9月にロンドンのスタジオツアーを視察し、「本当にすばらしい。たいへん見応えのある内容で時間を忘れるほどだった」と絶賛している。

もしハリポタのスタジオツアーが開設される場合は本家ロンドンを模したものになるはずで、そこに西武HD独自のアイデアが使われる可能性は少なそうだ。一方で、西武グループのもう一つのレジャー施設、「西武園ゆうえんち」は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を復活させた希代のマーケター、森岡毅氏と組んで現在リニューアル中。1960年代の懐かしい町並みや人情味を再現するというコンセプトだ。後藤社長は「リアルとバーチャルを融合させてそれを実現させたい」と話す。

バーチャルの活用はコロナ以前から決まっていたことだが、コロナによって人と人の触れ合いに制約が生じるとすれば、バーチャルの重要性はいっそう高まる。西武園ゆうえんちは2021年にリニューアルオープンする。コロナ後における遊園地のモデルケースとなる可能性がある。

西武HDは過去にも何度も経営危機に直面した。同社設立以前の2004年の西武鉄道上場廃止に始まって、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2013年のサーベラスとの緊張感の高まり。こうした幾多のピンチを「社員の多くが身をもって体験し、それをビジネスチャンスと捉えた」ことが後藤社長の誇りだ。ここに挙げられたようなアイデアは、すべて同社の社員が考え出したことである。コロナ禍をチャンスと捉えるような試みは今後も生まれ続けるだろう。

インタビューの全文は「週刊東洋経済プラス」の「スペシャルインタビュー/西武ホールディングス 社長 後藤高志 埼玉はどこよりも安心安全、沿線の価値が見直される」でご覧いただけます。
大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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