JRvs静岡県「リニア問題」、非はどちらにあるか 「ヤード整備」巡り質問書と回答書の応酬合戦

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それでも一縷の望みをかけて金子社長は会談に臨んだ。6月26日、川勝知事は静岡県庁の玄関で、余裕の表情で金子社長を出迎えた。そして会談のもようはインターネットで生配信された。国民が監視する中で、両トップが何を話すのか、いやがうえにも注目が高まった。

約1時間20分行われたこのトップ会談では、金子社長は、「なし崩しにトンネルを掘ることはしない」と強調したうえで、ヤード整備の必要性を何度も訴えたが、川勝知事が真正面から受け止めることはなかった。いっぽうで、川勝知事はヤード整備の着手を明確に否定することもしなかった。

このまま何の結論も出ないまま会談は終了すると思われ、金子社長も「今日はヤードの話がなかなかご了解いただけなかったのが残念だが」と、締めの挨拶のような話を始めたとき、事態が動いた。川勝知事が突然、「いやいや、これはとにかく、条例にかけるだけの話ですから」と、話したのだ。

県は5ヘクタール以上の開発工事では県と事業者が自然環境保全協定を結ぶと条例で定めている。JR東海が作業員宿舎の建設などこれまで行ってきた準備工事の面積は4.9ヘクタールだったので協定締結の必要がなかったが、これ以上工事の範囲を広げると5ヘクタールを超えるため、協定を結ぶ必要があるというわけだ。

知事「頭からペケではない」

ただ、県はヤード整備はトンネル掘削と一体であり、有識者会議や専門家会議の結論が出る前に協定は結ばないという立場のはずだった。川勝知事の発言は明確ではないにせよ、ヤード整備は本体工事とは別物であり、協定を結ぶことで個別に進めたいというJR東海の要望を受け入れたようにも聞こえる。

「条例が通ればいいのですか」と金子社長は何度も確認したが、川勝知事は、「トンネル本体工事と別個のものであれば、頭からペケという話ではない」と述べ、会談は終わった。

川勝知事が前言を翻した例はこれが初めてではない。たとえば、昨年6月には「リニア工事は静岡県にまったくメリットがなく、工事を受け入れるための“代償”が必要」と記者会見で発言したが、その後撤回している。今回も知事が県の見解をトップ判断で変更したという可能性もある。会談後の囲み取材で、金子社長は「条例のクリアがすぐに進むなら、今日の目的は叶えられたことになる」と言い残して、会場を後にした。

川勝知事への囲み取材でも、知事の“翻意”について質問が集中した。「トンネルを掘らず自然を破壊しないという前提であれば、ヤード整備は容認できるのか」という質問に対し、川勝知事は「そうです。条例の趣旨にのっとってやればいい」と答えている。

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