JRvs静岡県「リニア問題」、非はどちらにあるか 「ヤード整備」巡り質問書と回答書の応酬合戦

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JR東海は納得しなかった。同社によれば昨年5月、県との間で協定を結ぶ方向で協定書の作成が進んでおり、このときに活動拠点整備工事とトンネル掘削工事という区分はなかったからだという。その指摘が正しければ、新しいルールを後から作って、それを盾に申請を却下するというのは行儀のいいやり方ではない。

さらに、金子社長がなし崩しにトンネルは掘らないと約束したにもかかわらず、ヤード整備とトンネル掘削を一体としていることもJR東海は納得がいかなかった。JR東海は7月3日の夜に県に説明を求める文書を送付した。まもなく日付が変わろうという23時近い時刻に、「さきほど静岡県に書面を送った」と発表したことにその緊迫ぶりがうかがえる。

そして、7月7日、県からの回答が来た。それによれば、県は2018年時点で工事全体を「宿舎・事務所等工事」と「本体工事(トンネル工事)」に区分しており、JR東海が今回希望するヤード整備は2019年5月末に開催された大井川利水関係協議会の結果を踏まえ、トンネル掘削工事と一体であると6月に再確認したという。そして、県は2019年6月以降JR東海から協定締結に関する協議を受けていないことから、JR東海は承知していると理解していたという。また、JR東海のいう協定を結ぶ方向で協定書作りが進んでいたとの点については、仮にヤード工事が本体工事ではなく、宿舎・事務所工事の延長であるとなった場合に備えてJR東海に協力したものだと説明している。

では、県の回答に対して、JR東海はどう動くのだろうか。これまでのやりとりを見る限り、JR東海が何らかの動きを見せたとしても、県の姿勢が軟化する可能性は低そうだ。

腹の探り合いでなく建設的議論を

静岡工区のトンネルは何カ所かに分けて掘られるが、トップ会談における金子社長の説明によれば、静岡工区で掘る最も長いトンネルの長さは本坑と斜坑を合わせて6.5km。月100mのペースで掘り進めれば、このトンネルを掘り終えるまで65カ月、つまり5年5カ月かかる。トンネル完成後、線路に相当するガイドウェイを設置して走行試験を行うとさらに2年かかる。今すぐトンネル工事を始めてもこの時点で2027年12月だ。

そこに、3カ月程度かかるとされるヤード整備を加えると、2027年開業というスケジュールは計算上ではすでに破綻している。金子社長は、「途中で工夫をして(2027年に)収めていけるか」としていた。

トンネル掘削工事の可否を決める有識者会議は6月2日に3回目の議論が行われて以降、1カ月以上実施されていない。しかも、比較的早期に合意が得られると予想されていた水資源ですら3回議論しても先行きが見通せない。このペースで、県が要望する生物多様性の問題など計47項目の評価を行ったら、有識者会議の最終結論は一体いつ出るのか。このままでは、途中でどんな工夫をしても、リニアの開業は2028年以降にずれ込んでしまう。

静岡県でリニアの対策本部長を務める難波喬司副知事は、5月7日の取材で「大井川の水問題を解決する腹案を静岡県は持っているのか」という質問に対し、「ないことはない」と発言した。ただ、その後に「それは私たちが提示することではない」と付け加えた。もし静岡県側に問題を解決する腹案があるなら、進んで開示するべきだ。

また、金子社長は会談時に、川勝知事の「予期せぬことは起こりうる。もし水を戻せないとなったらどうするのか」という核心を突く質問に対し、「それは考えにくいと思っている」と答えたが、大井川の水に生活を依存する人々の中にはその答えに納得できない人もいるだろう。

両者がもっと相手の懐に飛び込むような議論をしないと、この問題の解決は遅れるばかりだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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