ニッポンの大学の”ジレンマ”とは? 古市憲寿×吉見俊哉対談(上)

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大学では研究ができない!?

古市:研究者がそこまでやらないといけないのですね。吉見先生は、1日どのくらいを研究時間に割けるのですか。

吉見:少ないですね。僕は朝方の人間なので、朝5時に起きて、6時半ごろまで研究しています。これだけが自分の時間。大学に来てしまうと、学生の教育や組織的な調整でそうとうな時間を費やすので、研究なんてできませんから。

古市:いつぐらいからですか。

吉見:ここ10年くらいは、大学で研究ができる生活なんて全然していませんね。

古市:そんなお忙しい中で書かれた『大学とは何か』(2011年7月発売、岩波新書)。とても面白かったです。この書籍は、実感がこもっていることなのでしょうか。

吉見:そうですね。私は8年前に所属している情報学環という組織の長をする破目に陥って、それをなんとか3年やって、その後大学改革にも関わってきました。大学という組織が持っている問題点や困難、同時に将来の可能性を感じてきました。実体験から出てきた「想い」を直接法ではなく、歴史の中で検証していく必要があると思い、「大学の歴史」として書きました。

環境・制度的な困難がある

古市:ご著書の結論が「ポスト中世的大学になっていく」ということでした。具体的にお聞かせください。

吉見:大学は、中世に誕生して近世に一度死んで、19世紀になってもう一度誕生しています。その19世紀に再生した大学が、今、二度目の死に向かいつつあるのかもしれない。だから三度目の大学の誕生があるとすれば、そればポスト近代的な大学でもあるのですが、一面では中世の大学に似たところも出てきます。そのくらい大きな変化に、大学は直面しつつあります。

現在、日本の大学は、3つの「困難」を抱えていると思います。ひとつは、少子化の中で大学が増え続けている点です。戦後、日本には大学が50校もありませんでした。それが現在は、800校近くまで増えています。しかも、1980年代以降、18歳人口が減少傾向にある中、1990年代、2000年代と大学は増え続けました。だから今、「このボリュームで大学は必要なのか」「この規模で高学歴人材を輩出する必要があるか」ということが問われていると思います。

2つ目は、大学は世界的にも増えているということです。たとえば、アメリカでも、4年制だけで、2500校近くある。短期も含めれば、4000校とも言われています。中国でも正確な数はわかりませんが、1600校近くあるのではないか。世界全体の大学数は、たぶん1万校以上あると思うのです。そんなグローバルな環境下で大学の大競争時代が始まっている。

最後は、学問が流動化、複雑化していることです。19世紀であれば、社会学、物理学、化学、工学、法学など、ディシプリンがわりとはっきりしていました。しかし現在、知の仕組みそのものが流動化し、複雑化する中で、かつ大学生、大学院生の数が膨れ上がる中、大学という組織の定義「そもそも大学とは何なのか」が問い返されていると思います。

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