新型肺炎が「世界の自動車産業」に及ぼすリスク 多く拠点を構える部品メーカーに与える懸念

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中国の自動車部品輸出額は2018年に約6兆円(544億ドル)、北米、アジア、欧州がそれぞれ全体の32.9%、30.4%、22.0%を占めた。新型肺炎による生産の滞りが、自動車部品輸出、特に輸出額の比重の大きい走行・車体関連部品および車載電子部品は大きな影響を受けると予測される。中国の自動車産業とグローバルサプライチェーンは複雑に絡み合っているなか、中国製部材が供給されなかったら、多くの企業が少なからず直接・間接的に影響を受けるだろう。

想定される2つのリスク

これまで中国は付加価値の高い部材を輸入して国内で最終製品にして輸出する「世界の工場」の役割を担ってきたものの、近年は高品質な部品や設備などの国産化を進めてきた。裾野産業の発展やワーカー素質の向上に加え、地場・外資系メーカーの生産性も向上し、低コストで部品の量産は可能となった。サプライチェーンの寸断が幅広い自動車部品に広がると、中国に貿易依存度の高い日本国内企業への影響も懸念され、2つのリスクが浮上される。

まず1つ目のリスクは中国から部品調達が一時中断することだ。現在、コストパフォーマンスが重視される中国製部品や汎用部品が日本国内工場に供給されている。日本は中国からの自動車部品輸入額は2019年に3285億円、自動車部品輸入全体の3割を占めている(貿易統計)。

また自動車・車載電子・デジタル加工設備など幅広い分野で使用する半導体・電子部品の輸入額(4895億円)が全体の19%を、ワイヤーハーネスや電装品配線を含む絶縁電線・ケーブル(2194億円)が同27%を占めている。特に中国華南地域に進出している日系自動車部品関連企業のうち、2割弱の企業が輸出を行っているとみられる。

2つ目のリスクは、中国向けの部材・設備の供給も停滞することだ。ハイテク製品や製造装置などの中間財・資本財では日本企業が依然強い競争力を維持している。2019年の日本から中国への輸出額では、半導体・電子部品が9806億円(同品目輸出額全体の24.5%)、自動車部品が6853億円(同19.0%)となっている。

実際、中国では日系部品メーカーの現地調達率は80%に達しているものの、精密部品・高機能部材・装置に関しては輸入に依存しているとされる。新型肺炎の影響による企業の生産停止や稼働率低下が長引けば、日本製部材・設備の生産やグローバル出荷にも影響を及ぼし、日本国内企業にとって新たな不安材料となる可能性がある。

近年、人件費の上昇などでコストが増え、中国から日本国内や東南アジアに生産設備を移転した事例が増加し、米中貿易摩擦に加え、生産拠点移設など「中国依存リスクのヘッジ」を加速する動きも出てきている。2011年の東北大震災でルネサスの自動車チップ工場が生産停止したことより世界自動車メーカーの生産がストップしたことを彷彿させる。中国市場に依存度が高い日系自動車関連企業にとっては、中長期的のアジア・中国戦略の策定が求められている。しばらくは中国国内の動向や企業の新型肺炎の対応から目が離せない状況が続きそうだ。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 上席主任研究員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、日本・中国自動車業界の知見を活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。中央大学兼任教員、専修大学客員研究員を歴任。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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