まるで犯罪者扱い「成年後見人」で地獄見た家族 認知症の夫を支える妻のあまりに過酷な現実
数年前のことだが、父親が認知症になって定期預金が解約できず、成年後見制度を使っていた友人がいて、「あれは地獄だよ」と言っていたのを思い出した。
そこで、今もこの制度のおかげで困っているという大阪府の山崎直子(仮名)さんに改めて聞いたのだが、話を聞いてあぜんとしてしまった。認知症のことを無視した法律によって、善意の家族が苦しめられているとしか言いようがないのである。
成年後見制度を使うきっかけ
直子さんのご主人がアルツハイマー型認知症と診断されたのは10年ほど前だった。証券会社に勤めるサラリーマンだったが、診断と同時に休職になり、数カ月後に退職させられたという。
成年後見制度を使うきっかけは単純だった。症状の進行でご主人がうまくしゃべれなくなり、自分の名前も書けなくなってきたとき、ふと、ご主人の実家の土地が兄妹で共有になっていたことに気づいた。兄妹仲は悪くなかったのだが、いずれ相続となったときにサインができなかったら困るだろうと思い、銀行に相談したら、後見人をつけたほうがいいと勧められたのである。
「とくに郵便局は、本人の確認がうるさいとも聞いていたし、後見人をつけたら、私が代理になって何でもコトが進むと思ったんです」
診断から6年経った2014年、直子さん自身が成年後見人候補として「申し立て」を申請した。ところが、裁判官が直子さんの後見人を認めたのは身上監護だけで、財産管理は司法書士を指名したのだ。これが直子さんの「地獄」の始まりだった。
「まず、預貯金はぜんぶ整理させられました。もちろん定期預金は解約です。かけたときの利息がよかったし、もう少しで満期になるから待ってほしいとお願いしたのに、解約させられて信託に預けることになりました。
昔、主人が私の体を案じてかけてくれた保険も、主人が払っているということで、4つのうち2つは解約させられました。私が倒れたら残された子供たちが困ると訴えたのですが、やはり駄目でしたね。のちに私は事故で腕をケガしたのですが、この時解約したせいで給付を受けられなかったのです。
また主人は、重度の傷害になったら一時金が出る保険をかけていて、私が受取人だったのに、これも主人の信託に入れられたんです。生活費に必要ですからといっても、後見人は認めてくれません。
私たちに残された口座は郵便貯金と銀行預金の2つですが、郵便貯金は介護費用の引き落としだけで、キャッシュカードは破棄させられ、自由に使えません。先日も間違って入金したら引き出せないのです。銀行の口座には予備のお金200万円だけ残し、年金と信託から毎月の生活費として15万円が振り込まれるようになりました。これが普段の生活に使える唯一の口座です」
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