聞こえる言葉が理解できない人が直面する危険 APD・聴覚情報処理障害を知っていますか

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なぜAPDが起こるのでしょうか。脳に何らかの損傷が生じ、このために言葉の聞き取りに障害がでてくることがあります。これが当初、学会で報告されたAPDのケースであり、狭い意味でのAPDです。

一方、脳自体には損傷はないものの、脳機能に何らかの問題があり、音声の聞き取りが悪くなるというようなケースも少なくありません。これが広い意味でのAPDです。また、発達障害の人には、APDの合併が多く見られます。集中力の欠如などから音声の聞き取りに困難が生じているのかもしれません。

脳の中のどの領域に問題があり、音声の聞き取りに障害がでてくるのか、この点を推測するのはなかなか難しいことです。APDを引き起こす原因は、さまざまであり、わかっていないことも少なくありません。

APDの人の多くは、生まれつき脳の音声処理機能に問題があるのではないか、というのが私の考えです。

生まれたときから音声の聞き取りづらさはあるのですが、成長するまでそれに気づいていないケースも多いようです。APDの方が本当に困難を感じるようになるのは、社会人になって、仕事についたり、転職をして環境が変わったりしてからでしょう。

聞こえないために仕事上のトラブルが増え、これをきっかけに自分のAPDに気づくことが多いのです。そして、APDは現状、こうすれば治るという治療法は確立されていません。しかし、その工夫により、聞こえの状態を改善することはできます。

聞こえの悪さを補うには

聞き取りの悪さを改善する工夫の1つは、相手の口元が見える位置で会話をすること。APDの方は、話し手の口の形を見ながら話を聞くことで、音声情報を補助しています。相手の口が見えるように向かい合って会話をするようにしましょう。そして、相手の人には大きな声ではっきり話してもらうように協力を求めてください。

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協力を求めることはとても大切です。APDの方は、聞こえないということを周囲に隠しておきたい人が多いようです。しかし、隠しておくと「人の言っていることを無視する」「言ったことと違うことをする」といった誤解が生じやすく、誤解されればされるほど、きつく注意を受けることになりがちです。自分が聞こえないということが周囲の人に理解されていれば、自分のできないことをカバーしてくれる人もいることでしょう。

聞き返したことに何度も答えてくれる。用件をメモでくれる。代わりに電話をとってくれる。このような協力を得られれば、仕事のミスも少なくなり、働きやすい職場になると思います。隠しておいていいことはあまりありません。自分の聞こえの悪さを周囲に話してみてはいかがでしょうか。

ただし、聞こえないことがわかると、逆に攻撃的になる人もでてくるかもしれません。長く働くためには、よりよい人間関係をつくることが大切です。協力をあおぎながらも、まわりの人と衝突しないように注意が必要です。ほかにもさまざまな工夫やツールがあり、それらによってある程度は聞こえの悪さを補っていくことができると思います。

私は、APDはその人の特性の1つだと考えています。ですから、1人で悩むよりも正しく認識して受け入れることが何よりも大切です。それによって人生を前向きに歩んでいかれることを願っています。

平野 浩二 耳鼻咽喉科専門医・ミルディス小児科耳鼻科院長

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ひらの こうじ / Koji Hirano

専門分野は、補聴器・難聴・聴覚障害診療。東北大学卒。聴覚障害者の手話による診療を長年行い、その延長で聴覚情報処理障害(APD)に出会う。APDのことを知っている耳鼻科医が非常に少ないことから、APDのサイトをたちあげ、その啓発に努めている。今では年間200人ほどのAPD患者を診察している。現在は東京の江東区にある亀戸小児科耳鼻咽喉科で毎週火曜日にAPDの患者の診察にあたっている。

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