トランプ大統領がパウエル議長に激怒したワケ 9月以降の「追加利下げ」はどうなるのか?
[ジャクソンホール(米ワイオミング州) 23日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は23日、ワイオミング州ジャクソンホールで開催中の経済シンポジウムで講演し、FRBは足元の景気拡大を維持すべく「適切に対応」すると表明した。ただ、今後FRBがどれほど速いペースで利下げを行うのか手掛かりを示さなかったため、FRBに対し繰り返し利下げ圧力を掛けているトランプ米大統領は痛烈にパウエル議長を批判した。
パウエル議長は講演で、米経済は「良好な立場」にあるとの認識を示しながらも、米中貿易戦争に起因するマイナスの影響など「著しいリスク」に直面しているとした。貿易戦争が企業投資や信頼感への障害となり、世界経済の悪化につながったとすれば、FRBはすべてを金融政策で修正することはできないとし、「現在の状況に対する政策対応の指針となる直近の前例は存在しない」と指摘。金融政策が「国際貿易に対して整ったルールブックを提示することなどできない」と述べた。
議長は1990年代の一連の利下げで景気拡大が維持されたことには言及したものの、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利下げを行うかについては明言を避けた。FRBの次の一手に関してFRB内で見解の相違が顕著になっている情勢を反映した格好で、FRBは9月のFOMCで追加利下げを決定した後も年内数回の利下げを実施すると予想している投資家が肩透かしを食らった可能性がある。
FRBは7月30─31日のFOMCで、2008年以来初めてとなる利下げを決定。パウエル議長はFOMC後の記者会見で、この利下げは「サイクル半ばにおける調整」的な性格を持つと説明。利下げサイクルの開始であるとはみていないとの立場を示していた。
パウエル議長のこの日の講演に対しトランプ大統領は痛烈に批判。「FRBは相変わらず何もしていない!」とし、「パウエルFRB議長と中国の習近平国家主席のどちらが米国に対するより大きな敵なのか」とツイッターに投稿した。
トランプ氏はこのほか、中国商務省が対米報復関税を発動すると発表したことを受け、米企業に対し中国から事業を撤退させ、米国内での生産を拡大するよう要請。われわれに中国は必要ない。率直に言えば、中国がいない方が状況はましだろう」とツイートした。
市場はパウエル議長の講演そのものには大きく反応しなかったが、トランプ氏のツイートには反応し、株価下落、国債価格上昇(利回り低下)などの動きが出た。ステート・ストリート(ボストン)のシニア世界市場ストラテジスト、マービン・ロー氏は「トランプ氏の中国に関する最新のコメントを受け、米経済が景気後退(リセッション)に陥るとの懸念が台頭した。ドル相場や米国債利回りの動きはこうした懸念を如実に反映している」と述べた。
トランプ氏のツイートで米中通商協議を巡る先行き不透明感が一段と高まる中、パウエル議長は講演で、英国が欧州連合(EU)から強硬離脱(ハードブレグジット)する可能性やドイツ経済の減速、香港での政治的緊張などが海外要因として挙げられるものの、短期的な混乱にとらわれず、米経済の動向に集中することが求められると指摘。「通商を巡る動きが見通しにどのように影響するのか注視するとともに、2%の物価目標と力強い雇用の推進に向け政策を調整していかねばならない」と述べた。
ただパウエル議長がどのような道筋を選ぼうと、FRB内に見解の相違があることは21日に公表された7月のFOMC議事要旨のほか、ジャクソンホール会合に参加しているFRB当局者の発言から明白だ。
この日はセントルイス地区連銀のブラード総裁が、9月のFOMCで50ベーシスポイント(bp)の利下げについて「活発な議論」が行われると発言。景気後退入りの前兆とされる長短金利の逆転について懸念しているとも述べた。同総裁はこれまでも低インフレに対応するために利下げが必要との見解を示している。
一方、クリーブランド地区連銀のメスター総裁は、追加利下げの必要性についてまだ納得していないと表明。「経済が現状を維持すれば、現時点では何も変更しないことを主張する公算が大きい」と述べた。ただ、「経済に対する下向きリスクには留意しており、(FRBが担う)2つの責務に常に注力していることを確実にしたい」との考えも示した。
FRBは7月のFOMCで8対2で25bpの利下げを決定。ブラード総裁とメスター総裁との間の見解の相違は、FRB内に存在する広範な意見の隔たりを象徴しているに過ぎない。FRBに利下げの圧力を掛け続けているトランプ大統領の存在も事態を複雑にしている。
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