テイラー・スウィフトが「Appleに勝利」した戦略 「感情ツール」がアイデアや芸術作品を広める

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スウィフトは単身でアップル・ミュージックに─―消費者向け製品のメーカーとしては世界で最大の成功を収めているあのアップルに─―対抗して立ち上がり、アーティストへのロイヤルティーに関する方針を一晩で変更させるのに成功した。

そのためにスウィフトが行ったのは、アップルに彼女個人を差出人とする公開書簡を送ることだった。書簡が効力を発揮したのは、単に彼女の音楽の質ゆえではない。背後に忠実なフォロワーたちが大勢存在していたからだ。

仲良しセレブの「なれ合い」だけじゃない

スウィフトのインスタグラムのフォロワーは5000万人以上で、サイト内でも最高レベルを誇り、フェイスブックには7300万の「いいね」がついていた。つまり、フランスの人口よりもたくさんの人々の関心をスウィフトは引きつけていたということだ。

だがテイラー・スウィフトが、「テイラー・スウィフト」と呼ばれるキャラクターのパフォーマンスの場としていちばん好んだのは、タンブラーだった。タンブラーのサイトで彼女は、「スウィフティーズ」を自称する世界中の若いファンのコミュニティーとの間に、心からの愛情や深い信頼感や忠誠心を育んだ。

そのために彼女が行ったのは、例えば、ファンの玄関先に自分で手配したクリスマス・プレゼントを携えてあらわれたり、そのサプライズ訪問の動画を投稿したりするというものだった。

嬌声を上げるファンで埋めつくされたスタジアムを長い足を誇示するように歩くアクションショットに加え、スウィフトは、ヴァインのスターと同じように、親近感を通じて相手とつながろうとする映像やちょっとした冗談の動画を配信した。それは例えば、飼い猫と一緒の自撮り写真だったり、パジャマ姿で歩くショットだったり、ガールフレンドたちをハグしている映像だったりした。

スウィフトのBFF(Bestfriend Forever:永遠の親友)は、正確には一般人ではない。スウィフトとの交遊をよく報道される若い女性のインフルエンサーの中には、歌手のセレーナ・ゴメスやファッションモデルのカーリー・クロスなどがいる。

そこからはまた、仲間のインフルエンサーからなる内部の強力なサークルが、本人の影響力をどれだけ増大させるかが示されている。かつて子役として活躍したゴメスのスターとしての吸引力は、それ自体、強烈だ(ゴメスのインスタグラムのランキングは、ナンバーワンであるスウィフトのわずか2つ下だ)。

ゴメスはリアーナのアルバム『グッドガール・ゴーン・バッド』的なイメージの外的人格をつくることで、10代の若者たちを魅了した。それは、もっと健全な自己像をつくりあげたスウィフトよりもむしろ成功した。

多くの人々は、ゴメスの出演した2013年の映画『スプリング・ブレイカーズ』が成功したのは、映画からとられた、ゴメスが水キセルを吸っているGIF動画が広く共有されたからだと考えた。

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