日本車が中国の新エネ車規制で生き残る条件 競争激化も規制緩和で日系メーカーに追い風

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中国での自動車生産400万台超のVWは、2017年に地場自動車メーカー、JAC汽車とのEV合弁企業設立(年間生産台数36万台)を発表した。VWはJAC汽車に対しクレジット優先購入権を持つことでNEV規制の達成を見込んでいる。

そしてこの動きに追随して、フォードと衆泰汽車、日産・ルノーと東風汽車、BMWと長城汽車などの新規EV合弁事業が相次いで発表された。またダイムラーが北京新能源汽車に、ルノーが江鈴新能源汽車に出資するなど、NEV業界内の資本提携の動きが活発化している。

だが今後の中国NEV市場の競争激化を鑑みれば、現実は日系企業にとって決して甘くない。NEVシフトが国策として推進される中、昨年の中国NEV販売台数は101万台に達し、世界シェアの5割を占めるまでになった。

補助金政策の波に乗って地場メーカーも活気づいている。BYD汽車、北汽新能源、上海乗用車など民族系3社はNEV市場の47%のシェアを握る。外資系企業はまだ中国で本格的な生産を行っていないため、高級EVに特化するテスラを除くといずれも販売台数は少ない。

規制緩和で生かせる日系メーカーの技術的優位

一方、中国政府が昨年NEV市場の外資出資比率規制を撤廃したことにより、外資系企業は中国で独立資本でEV生産が可能となった。また外資系NEV販売の障壁となっている補助金制度は2020年までに打ち切られる方針だ。

こうした中、テスラは上海で年産50万台のEV新工場の建設に踏み切り、2020年に量産車種の投入を図ろうとしている。今後多くの外資系企業が中国NEV市場に参入し、地場メーカーもNEVシフトを加速させれば、市場競争は一層激しさを増していくものと思われる。

今年1月に適用が開始された「自動車産業投資管理規定」では、PHVの生産能力拡張に関する規制が緩和されるとともに、航続距離を伸ばすためにガソリンで発電できるレンジエクステンダー(E-REV)がEVとして認められた。このことはPHVで豊富な生産実績をもつトヨタとホンダ、e-POWERの生産によりE-REVの開発で先行する日産にとって朗報だ。

これからの日系メーカーには、NEVの市場投入と基幹部品の選定が喫緊の課題となる。これを打開するには、現地パートナーとの協業を前提に、地場NEVメーカーに出資することや新たに合弁企業を設立することなども検討に値しよう。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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