ゴーン辞任で火蓋、日産・ルノー統合の神経戦 4月の臨時株主総会が日仏対立の前哨戦に

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アライアンスの動向で当面注目されるのは、スナール氏の日産社内での役職と、アライアンス全体の戦略を立案する統括会社「ルノー日産BV(RNBV)」の後任会長人事だ。

ゴーン氏解任後、日産の会長は空席状態が続いている。ルノーはこれまで、「日産COO(最高執行責任者)以上の役職を推薦できる権利がある」との合意に基づいて日産にゴーン氏の後任会長を送り込もうとしたが、日産は申し出を拒否してきた。ルノーは今後、スナール氏を日産会長に据えるよう要求してくる可能性もあり、会長のポジションを取り戻したい日産側との綱引きが本格化しそうだ。

ルノー新会長に就いたジャンドミニク・スナール氏が今後、日産などとの提携見直し協議でルノー側の窓口になる。右はティエリ-・ボロレ新CEO。いずれもタイヤ大手ミシュランの出身だ(Reuters/Philippe Wojazer)

RNBV会長の人事も一筋縄にはいきそうにない。RNBV会長はルノー側、副会長は日産側との取り決めにより、これまでルノー出身のゴーン氏がトップを務めてきた。従来通りであればスナール氏が新会長に就任するのが自然な流れだが、この点も含めて対等ではない提携内容の見直しを求める日産側が簡単に首を縦に振るのかどうか。日産が主張を強めれば強めるほどフランス側の反発は必至で、アライアンスの新たな火種にもなりかねない。

株主総会で緊急動機の可能性はあるか

一方で、日産が発表した文書では臨時株主総会について、ゴーン氏ら2人の解任とスナール氏の選任に「目的を限定した」とわざわざ記述した。そこには日産のこだわりが垣間見える。アライアンスの見直しをめぐっては、フランス政府の代表団が1月中旬に来日し、ルノーと日産を共同持ち株会社方式で経営統合させる意向を日本政府関係者に伝えたとされる。

そのことを意識してか、日産株の43.4%を握るルノーが臨時総会の場で経営統合を株主提案する展開などはあり得ないとのメッセージを明確に打ち出したとも言える。西川社長も会見で、「(経営統合を提案したとの)報道は承知しているが、日産への提案はなかった。今は経営統合などの形態を議論する段階ではない。(議論が)現在必要でもないと思っている」とフランス側を牽制した。ゴーン氏失脚を利用して、ルノー優位の提携関係見直しを目指す日産としては、フランス側が主導する経営形態の見直しは到底容認できない。

臨時総会でルノーが緊急動議を出し、経営統合を提案してくる可能性も捨てきれない。これは「ルノーは日産取締役会が承認していない議案を提案できない」という条項が含まれた2社間合意「改訂アライアンス基本合意書」(RAMA)違反だ。その場合、日産はルノーの同意なしにルノー株を買い増せる権利を得る。ルノーに現在15%出資する日産が25%まで買い増せば、日本の会社法によってルノーが保有する日産株の議決権が無効になる。

ただ、ルノーは出資比率では4割超だが、議決権行使ベースでは単独で過半を超える可能性も十分にあり、臨時株主総会で経営統合を提案して強引に決議に持ち込めば、日産にルノー株買い増しの時間的猶予を与えないこともできる。当然、日産はRAMA違反を主張するだろうが、確実に覆せるかはわからない。日産としては最悪の事態も想定した対応策を今後練る必要にも迫られる。

とはいえ、両社間の信頼関係を完全に崩壊させてまで経営統合に踏み切れば、新会社が立ち上がりから機能不全に陥るのは目に見えている。提携を解消し、単独で生き残るのは両社とも会社の規模的に難しい。主導権の奪い合いに終始するのではなく、変革期にある自動車業界での競争力を最大化できるような、冷静な話し合いが求められている。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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