2回目の米朝会談、最大のリスクはトランプ氏 朝鮮半島の「完全な非核化」は進展するのか

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一方、米朝間では昨年末から数回にわたって首脳の親書がやりとりされている。また、実務者協議も水面下で行われており、「非核化に向けた北朝鮮側の具体的な取り組みと、それに対するアメリカ側の措置は、すでに交渉のテーブルへ出されており、合意に向けてかなり具体的な話ができている」(在北京の北朝鮮関係者)という。北朝鮮はこれまで、非核化への取り組みに相応するアメリカの措置を望んできたが、それが具体的な内容まですでに話し合われており、2回目の米朝首脳会談では合意内容として発表されるという。

北朝鮮側では寧辺(ニョンビョン)にある核施設の放棄・廃棄や、国内の核施設・核兵器リストの提出(どこまで確認できるかは不透明だが)が、具体的な取り組みとして挙げられる。これに対し、アメリカは人道的支援の拡大や南北間の経済協力を経済制裁の対象から外す、あるいは緩和するという措置で応えるという。さらに、現在中断されている開城(ケソン)工業団地や金剛(クムガン)山観光事業の再開も視野に入っている。これらは南北経済協力の象徴的な事業で、うまくいけば、朝鮮戦争の「終戦宣言」へつながるだろう。

日本からはそう見えないが、金委員長は「非核化をしっかりと行い、経済改善に力を傾けたいのが本音だ」(北朝鮮関係者)という。大陸間弾道ミサイル(ICBM)をはじめミサイルの試験発射を繰り返し、さらに核実験を行った2017年までの姿勢とは明らかに違う、というのだ。2018年2月の韓国・平昌(ピョンチャン)冬期五輪に選手・文化交流団を派遣したことを契機に、北朝鮮は中国、韓国、アメリカと積極的な首脳外交を繰り返してきた。2019年の年明け早々、中国を訪問し習近平国家主席と会談したのもその一貫だ。トップ外交を軸に事態の打開を推し進めるという、金委員長の戦略に沿った動きだ。

最大のリスクはトランプ大統領

2019年元日に発表した「新年の辞」は、7割が経済分野に関する内容だった。2018年4月の朝鮮労働党中央委員会総会で、2013年以来の国是となってきた「経済建設と核武力建設の並進路線」から、経済建設に総力を集中する「新たな路線」への転換を宣言し、経済集中の姿勢を見せている。これを実現するためには対外的なリスクを極力排除し、かつ国連や米国を中心とした経済制裁の撤廃・緩和を実現する目標は、現在の北朝鮮にとって切実なものだ。

金委員長は「アメリカのトップと非核化について真摯に話し合ってこそ国力もつけられる、と自覚している」との見方が有力で、今回の米朝首脳会談に積極的だ。むしろ、最大のリスクはトランプ大統領のほうかもしれない。

ホワイトハウス内や議会、米国の北朝鮮専門家らの見方は北朝鮮に対して厳しく、非核化への意欲でも北朝鮮側に強い疑いを持っている。トランプ大統領自身も、下院与党である民主党と予算をめぐる対立が深まり、また自身のロシア疑惑の火種もくすぶり続けている。アメリカ国内の状況に押され、「アメリカで唯一、対北朝鮮穏健派」(米議会関係者)とされてきたトランプ大統領の態度が豹変し、北朝鮮とのディール(交渉)を中止する可能性もある。

ただ、そうなると北朝鮮も後には引けず、自発的な非核化はストップし、交渉ラインも途絶えてしまうだろう。北朝鮮は昨年の米朝首脳会談以降、国内メディアなどを通じて「信頼構築」「不信の払拭」という言葉をよく使うようになった。現在、米朝関係が動いているのも双方の信頼関係があるからこそ、と北朝鮮側は見ている。その信頼が崩れれば、日本を含めた東アジアの安全保障上の脅威が、そのまま存在し続けることになる。そのリスクについて、トランプ大統領はどこまで真剣に考えているのだろうか。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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