タリバンが復活するアフガニスタン、米国の貢献要請に日本はどう向き合うか

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 米国はサフワ運動の民兵に1日1人当たり300ドル(物価の違いを考慮すると、日本だと日給30万円以上もらっている感覚だろう)を支給して、協力させている。

イラク情勢に詳しい大野元裕・中東調査会上席研究員が、しばしば強調することは、中東での紛争の基底に「富と権力」をめぐる争いがあることだ。イスラム過激派による自爆テロについても、本人には「殉教すれば天国に行ける。そこには美しい庭園があり、色白で目の大きい処女を妻にできる」という聖典クルアーンが保証する慰めとともに、遺族には日本の感覚だとマンション一戸が買えるようなおカネが払われるケースが多くあると言われている。

米国はイラクの治安回復に功績があるペトレアス大将を08年10月にイラクとアフガニスタンを担当する中央軍司令官に任命した。ペトレアス司令官は、就任後の記者会見で「敵(タリバン)との対話が必要だ」と語り、アフガニスタンでもイラク方式のアメとムチの両面作戦で、治安の回復を図る考えを示している。

アフガニスタンのカルザイ政権も「タリバンとの対話と和解」を表明している。だが、タリバンはこれらの呼びかけをあっさり拒否している。

その理由は、「現段階ではタリバンは優勢に戦いを進めており、タリバン側には和解に応じる動機がない」(進藤氏)からだ。

タリバンは1990年代にアフガニスタンを影響下に置こうとするパキスタン軍と軍情報局(ISI)がイスラム神学校に学ぶパシュトーン人の若者を集めて作った組織である。パシュトーン人はアフガニスタンの人口の42%を占める最大民族だが、タリバンが出るまでパシュトーン人は政権から疎外されていた。

そうしたパシュトーン人の権力に参加したいという思いと、ソ連撤退後軍閥が各地に乱立して乱れた治安をタリバンが回復したことから、96年にタリバンが政権に就くことなる。

その後、タリバン政権は米国の攻撃であっけなく瓦解するが、残党はパキスタンにある「部族地域」に逃れ、カルザイ政権の機能不全などに付け込んで勢力を回復している。

いまだにパキスタン軍情報局はタリバンを支援しているとささやかれている。アフガニスタンは世界のアヘンの90%を生産しており、アヘン取引がタリバンの潤沢な資金源になっていると指摘されている。

アフガニスタンは79年のソ連軍侵攻以後、今日まで機能する中央政府がない。バース社会主義に基づくきっちりした中央政府が存在したイラクとの大きな違いだ。民族、部族間の和解も期待できない情勢だ。

したがって、ペトレアス司令官が用いたカネの力で有力部族を味方につけるという作戦も効果が疑問視される。こうしたイラクでさえ「天国」に見えるアフガニスタンに、欧米と日本が関与を強めようとしている。

(内田通夫 =週刊東洋経済)
(写真:海上自衛隊)

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