ガンプラの進化が生んだ「人肌再現プラモ」 プラスチック成形技術で血色や陰影まで表現

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多色成形技術とは、1つの金型に複数色の樹脂を流し込み成形する手法のことで、ガンプラでは1983年に初めて導入された。静岡県のバンダイホビーセンターにある4種類の素材を同時に使用できる多色成形機は、世界で唯一の設備だ。

金型の仕上げ磨きは職人による手作業。極小部品の金型造りにはレーザー加工機も使う(記者撮影)

成形機の性能だけでなく、それを扱うための部品設計や成形条件のノウハウといった技能の蓄積も重要だという。そのため、ホビーセンターには設計から生産までの全部門が集約されており、今でもすべてのガンプラは国内で生産されている。金型の最終調整は今でもベテラン職人による手作業で、1こすり(0.01ミリメートル)単位での研磨を行う。

1つのパーツ内に複数の色を流し込むことで色を再現する。精度が上がった今では小さく複雑なアニメキャラの瞳パーツも成形できるようになった(写真:バンダイスピリッツ)

今回使われたレイヤードインジェクションの原型が出てきたのは1990年。1つのパーツの金型に複数色の樹脂を流し込むことで、腕や胴体などの大きなパーツをまとめて成形する「カラー多重インサート成形」を使ったモデルが発売された。ただ、この技術はガンプラにおいては主流にならず、今でも色別にパーツを区分して成形する手法が一般的だ。

その後も技術開発自体は継続して行われ、関連分野として「異材質多重インサート成形」が発達した。特性の異なる樹脂を組み合わせ、関節をあらかじめ組み立てた状態で成形する技術で、これも原型自体は1980年代から存在していた。2010年から開始した「リアルグレード」ブランドで本格的に導入されたことにより日の目を見た。

固まる温度の違う2種類のプラスチック樹脂を使って関節を丸ごと成形。切り取って組み立てるだけで内部骨格が完成する(写真:バンダイスピリッツ)

背景にはガンプラの構造が複雑化したことがある。従来は腕や腰といった部位ごとにパーツを組み立て、それらを関節でつなぐ設計だったが、1995年以降は内部骨格を導入したシリーズが登場するなど、リアルさと作りがいを追求した製品群が拡大していった。一方で、内部構造まで再現するとなると必要なパーツ数は膨大になる。作りやすさも両立すべく採用されたのが、異材質多重インサート成形だった。

まずは「瞳」の再現に取り組んだ

技術が成熟したことを受け、2016年にはキャラクターのプラモデル化に本腰を入れ始めた。まず取りかかったのは瞳の再現。瞳は小さな部品だが配色が複雑なため、従来はシールや印刷で表現されていた。それをレイヤードインジェクションで再現したプラモデルシリーズ「フィギュアライズバスト」を開始。

フィギュアライズラボはその流れをくむ形で生まれた。今回の人肌を再現する技術も、きっかけはフィギュアライズバストの試作ミスから。表面の層が薄くなり、下地の色が見えてしまった失敗品から着想を得て、あえて透けさせる手法の開発に至ったという。

静岡にあるガンプラ製造の総合拠点、バンダイホビーセンター(記者撮影)

これからの展開について前出の筒井氏は、「フィギュアライズラボはすでに第2弾を開発中。また、多色成形以外の技術開発も行っていて、たとえばインクジェットプリンタによる立体印刷技術に力を入れている。キャラクターのラインナップも増やしていく予定だ」と話す。

世の中で使われている素材の中で、最もメジャーなものの1つがプラスチックだ。それを操る多色成形技術のポテンシャルは高い。技術を生かし、新たな顧客層を開拓できるか。ガンプラの進化は、プラモデルの世界を大きく広げている。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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