日本の住宅はドイツに比べ熱効率が悪すぎる 「脱炭素」では30年超の致命的な遅れに

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

さてここで今回の2つ目の質問です。COP21に関して、経済産業省が定めたCO2削減目標は何%か、ご存じですか。知っている方も多いと思いますが、答えはなんと-26%です。分野別にみると、オフィスや役所、ホテルなどの業務関係で-40%、住宅などでも-40%となっています。

(出典:経済産業省の地球温暖化対策計画より筆者作成)

これは結構、衝撃的な数字だと思いませんか。実は、この数字は1次エネルギー換算なので、簡単に言うと今まで使っていたエネルギーをそのままそのパーセンテージで減らすということとほとんど同じなのです。そして、これは新築だけではなく既存の住宅もすべて共通に減らすということなのです。なぜ-40%などという比率になったかというと、最近もずっと増加傾向にあるから、厳しい数字が課せられているのです。

実際、前出の(2)「新築の半分をZEHに」と言っても、それだけでCO2を劇的に減らせるわけではありません。既存の対策も抜本的に必要なのです。また前出の(1)=建築基準法の改定に関しても、やらないよりはいいのですが、基準が緩すぎて削減効果を読める状態ではありません。そこに大きな整合性はないように思われます。

日本の住宅の性能は、まるで古い「アメ車」?

一方、ドイツは、時代とともに着実に削減をしてきており、2020年前後ですべての州で、「カーボンニュートラルハウス」(ゼロエネルギーあるいはすべてのエネルギーを再生可能エネルギーで賄う)にすることが義務付けられています。こうしてみると、日本はやはり「30年超」遅れていると言えませんか。

重要なのは、遅れているという認識を持って「どうやったら追いつけるか」と考えることです。そこでもう一度 、(1)の建築基準法改定(国土交通省)を引き合いに出して対策の質がどのようなものか、考えてみます。

円グラフをみてください。

(出典:国土交通省の資料をもとに筆者作成)

今の日本の家の現状を温熱性能ごとにあらわしたものです。2020年に向け照準としている「H11基準住宅」は全体の5%しかありません。無断熱住宅も高い比率なので、国土交通省がここを目標にするには悪くないかもしれません。しかしこのH11基準住宅でも、もし 全館暖房をすると、ドイツのエコハウスであるパッシブハウスのエネルギー消費量から比べると6~10倍のエネルギーを消費してしまうのです。まるで1ℓあたり3kmしか走らないアメ車と30km/ℓのハイブリッドカーを比較する感じです。このように、日本の家の義務化基準は、決して厳しいものではないのです。

「全館暖房なんて贅沢だ!」と思う方が少なくないと思います。今の断熱性能が低い家では全館暖房などしたら、それこそおカネがいくらあっても足りないかもしれません。しかし一方で日本では年間約1万7000人が「ヒートショック」によって浴室で倒れ、亡くなっているとも言われます。全館暖房をしていない日本の家は、健康被害を起こすほど寒いのです。欧州では省エネルギーから始まった住宅の高性能化に関して、日本ではその必要性を認めないところに、最大の問題があると思います。

竹内 昌義 建築家、大学教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

たけうち まさよし / Masayoshi Takeuchi

1962年生まれ。東京工業大学大学院修了。1991年に竹内昌義アトリエを設立した後、1995年に設計事務所「みかんぐみ」を共同設立。2001年からから東北芸術工科大学(山形県山形市)の建築・環境デザイン学科准教授となる。2008年から同教授。山形エコハウス(山形県が事業主体、環境省の21世紀環境共生型モデル住宅整備事業の一つとして選定)をきっかけに、環境・エネルギーに配慮した住宅を設計、紫波町オガールタウンの監修などを手がける。『図解 エコハウス』『原発と建築家』『あたらしい家づくりの教科書』など著書多数。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事