三重県桑名市が「産業観光」に目覚めた理由 思わぬところにインバウンド需要があった
一方で桑名市は、簡単には解決できない課題も抱えていた。「海外からの多くのお客が訪れるエイベックス多度工場というコンテンツがあるのはわかったが、バスで視察して終わったらすぐほかの都市に移動していく。桑名にはおカネがほとんど落ちない」(黒田法雄・桑名市経済環境部商工観光文化課係長)。
街ぐるみのコンテンツを用意
海外からの視察客を取り込むには、宿泊・消費につなげていく仕組みを作ることで桑名市での滞在時間を延ばすしかない。
そんな思いから、インバウンドに対応する街づくりのための観光協議会が地域の産・官・学で立ち上げられ、2016年9月から産業観光ツアーが開始された。「いろいろな色彩のコンテンツがあれば楽しいということなら、協力は惜しまない」(市内にあるショッピングセンター・イオンモール桑名の渡邉誠ゼネラルマネージャー)など、桑名市に拠点を置く企業が参加。政府の地方創生戦略による地方創生加速化交付金(3300万円)も、産業観光ツアー立ち上げに投入された。
2016年度の産業観光ツアーは年度半ばの9月からだったが、中国、台湾、カザフスタン、ドイツ、フランス、アラブ首長国連邦など15回・365人の視察を迎え入れた。桑名市での消費金額は1100万円という経済効果が生み出された。テスト(実験)も兼ねてのスタートだったが、結果は上々といえるものだった。
コンテンツとしては、エイベックス多度工場を筆頭にイオンモール桑名、こちらも多度町に工場があるNTN、百五銀行、さらに小・中学校、介護施設、市役所まで――。視察する海外からのお客の要望に応えて、コンテンツになるものはすべて視察対象にした。
「工場でのカイゼンや生産方式に加えて、イオンモール桑名ではサービス産業の物流、安全安心、快適・清潔への取り組み、モールでのイベント(コト)などをコンテンツにしている」(黒田係長)
それだけではない。「小・中学校では片付け、掃除、給食などを通じてのしつけや教育など日本人の考え方を見学してもらっている。市役所では職員の目標管理や市民サービスなどの意識、業務の考え方。介護施設では高齢化社会への対応といったところ。そうしたところを視察したいという要望に対応している」(同)。
2017年度の実績は、36回・717人、消費金額は968万円だった。消費金額は前年度を下回ったが、これは前年度の地方創生加速化交付金による宿泊などの援助がなくなったためだ。
課題は海外からのお客の桑名市での滞在時間だ。産業観光コンテンツ、さらに産業以外の観光コンテンツ、宿泊施設の改善・充実などが滞在時間延長のカギを握ることになる。桑名市としては、この2018年度は50回・1000人、2500万円の消費金額を目標にしている。
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