交通事故鑑定人が「声なき声」からたどる真実 「息子がバイク事故で死んだ理由を知りたい」
その信条は「人は嘘をつくが痕跡は嘘をつかない」という交通事故鑑定のエキスパート。実況見分調書を一読するなり、次男の右折行動の不自然さを指摘した。
「この事故には解明すべき謎が残されたままになっている」「原付1人が悪者にされている、まさに死人に口なしを警察官がつくっている!」
熊谷は憤った。
事故現場に何度も足を運び、遺留品のバイクやヘルメット、洋服やスニーカーの傷のひとつひとつが、どの時点でどうやってできたのかを丹念に調べていく。
それは、「死者の声なき声を聞く」地道で根気のいる作業の繰り返しだ。そして……矛盾に満ちた事故の輪郭が、少しずつ形をなしてきた。
「目撃者の証言にない『ある存在』が事故の原因かもしれない」
熊谷鑑定は、事故の真実にあと一歩のところまで迫っていた。
「白い車」の存在
一方、新たな目撃証言を得るため、日々、現場周辺でビラ配りを続ける史子さんと長男。ある日、初老の男性が長男に近寄ってきた。
「バイクの子は悪くないよ。白い車が急に右折してきて、そのまま走り去ったんだ」
「白い車」については、実況見分調書のどこにも書かれていないものだ。
「おかん! 白い車と事故の因果関係がわかれば、弟の右折の理由がわかるかもしれへんで!」
絶望の日々の中、突然飛び込んできた新証言……思わず抱き合って涙する史子さんと長男。
本当に、その「白い車」が存在し、この事故の原因をつくったとするとその車は被疑者となる。さらに、現場にとどまらず逃走し、通報も、救護活動も行わなかったとなると、ひき逃げの被疑者にもなる可能性がある。
鑑定人・熊谷は鑑定書にこう記した。
「バイクの運転手こそが本件事故で唯一の被害者である」と。
今年2月、書き上げられた鑑定書は母・史子さんのもとに届けられた。事故から2年、熊谷鑑定と新証言によって事故の真相の扉が開かれようとしている。なぜバイクは右折しようとしたのか? 事故の真実を求め、母・史子さん、鑑定書を新たな証拠として今後の再捜査を求めていく。
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