政府、黒田東彦日銀総裁再任を国会提示 早大・若田部教授と日銀・雨宮理事が副総裁に
[東京 16日 ロイター] - 政府は16日、衆参の議院運営委員会に日銀総裁と副総裁2人の国会同意人事案を提示した。4月8日に任期満了となる黒田東彦総裁(73)は再任し、3月19日で任期満了となる副総裁の後任には、若田部昌澄・早稲田大学教授(52)と雨宮正佳・日銀理事(62)を起用する。
大規模緩和によって日本経済をデフレとは言えない状況まで回復させた黒田氏の手腕に対する安倍晋三首相の信頼は厚く、再任によって政権の至上命題であるデフレ脱却に向けた強い決意を示す。
米国の金利上昇を背景に、世界的に株価が乱高下するなど金融政策運営のかじ取りも困難さを増しており、黒田氏の政策運営能力に加え、財務省・財務官、アジア開発銀行(ADB)総裁などを歴任してきた国際金融における豊富な知見と人脈も市場安定に不可欠な要素と判断したとみられる。
日銀総裁を5年以上務めるのは、第20代の山際正道氏(1956─64年)以来。次の5年を全うして10年間となれば、かつて「法王」と呼ばれた18代の一萬田尚登氏の8年6カ月を超え、最長となる。
2人の副総裁候補には、岩田規久男氏(75)の後任に若田部氏、中曽宏氏(64)の後任に雨宮氏を起用する。
若田部氏は、大規模な金融緩和によってインフレ期待を高め、緩やかな物価上昇の実現を目指す「リフレ派」の代表的な経済学者の1人。内閣官房参与の浜田宏一・米イエール大名誉教授らとの共著もある。副総裁ポストに岩田氏に続いてリフレ派が就任することで、安倍政権が期待する大胆な金融緩和策の継続を市場に印象づける狙いもあるとみられる。
同氏は昨年12月25日のロイターへの寄稿で、物価が目標の2%に達していない中で金融政策修正議論が出ていることを「危険な動き」と指摘、「むしろ現在必要なのは金融緩和政策の強化であり、積極財政への転換である」と訴えている。
雨宮氏は、将来の総裁候補と目される日銀のエースとして、金融政策の企画・立案を担う企画畑を中心に歩んできた。黒田総裁の就任直後に打ち出した「量的・質的金融緩和」(QQE)をはじめ、現行の「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)付き量的・質的金融緩和」に至るまで、企画局担当理事として黒田総裁を実務面で支えてきた。
金融市場の先行き不透明感が強まる一方で、好景気の持続を背景に、政策委員内では長期化する大規模緩和の副作用や将来的な金利調整の必要性を指摘する声も出ている。先行きの金融政策運営が複雑さを増す中で、雨宮氏の政策立案能力の高さが評価されたとみられる。
正副総裁候補について市場では「安定した布陣だ。市場の混乱を避けながら、うまくバランスを取ったのだろう」(セントラル短資・総合企画部企画調査グループ係長の佐藤健司氏)と受け止められている。
人事案は衆参両院の同意を得て内閣が任命する。現在は両院で与党が多数を占めており、政府案が可決される可能性が大きい。
今後、衆参両院で候補者から金融政策のスタンスなどを聞く所信聴取が行われるが、与野党議員は日銀正副総裁人事案が事前に報道されたことを問題視しており、16日の議院運営委員会の理事会で政府に対して情報漏れの経緯を調査し、文書で回答するよう要請した。聴取日程については、20日ごろとみられる政府からの報告を受けて決める見通しだ。
正副総裁の任期は5年間。執行部として、最高意思決定機関である政策委員会を構成する。同委員会のメンバーは総裁1人、副総裁2人のほか、審議委員6人の計9人。当面の金融政策運営の方針などを決める金融政策決定会合は年8回定例開催され、総裁が議長を務める。
(伊藤純夫 竹本能文)
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