米国株の高値波乱が「暴落」につながる危険性 市場は悪材料を見ても見ぬふりをしている

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このように、ロシアゲートは、一段と深刻な方向へ向かっているとしか思えない。だが、今のところ米国株式市場は、「株価が上がっているうちは、悪材料は見ないふりをする」という状況のようだ。そのため、一連の政治面の悪材料が、いつ株価を押し下げるかのタイミングは極めて不透明だが、いつか突然、思い出したかのようにいきなり株価下落材料として騒がれ、米国株価が急落ないしは暴落する展開になる可能性があることは否定できない。

中東情勢も新たな懸念材料に

さらに、ここへ来て米国にとどまらない新たな懸念材料が出てきた。トランプ政権が「イスラエルの首都はエルサレムである」との認識を示し、(すぐではないものの)米国大使館をエルサレムに移転する、としたことだ。このことが、アラブ諸国の反米・反イスラエル感情を増幅する恐れが強まっている。

もともと最近の中東圏では、イランとサウジアラビアの反目が強まっており、地域情勢の不安定化が懸念されていた。これに今回の米政府の動きが重なって、中東産油地域の地政学リスクが増幅される展開となれば、原油価格が跳ね上がることもありえよう。

仮に、原油価格の大幅な上昇が生じれば、ガソリンや暖房油の価格上昇を通じて、米国(および他のエネルギー消費国)の家計などの購買力を削ぐ恐れがある。あるいはインフレ率上昇観測から、米長期金利が上昇すれば、米株から米債券への資金シフトが意識され、米国株の急落を警戒する必要が一気に強まるだろう。

こうしたさまざまなリスク要因から、株価の高値波乱が起きているわけだが、実は、気になるのは、指数の乱高下よりも物色動向の変化があわただしいことだ。

少し前までは、米国で半導体関連株を含むIT企業の株価が大きく調整していた。これは、半導体市場の先行きについて悲観的なレポートが配信されたことがきっかけだが、いわゆる「FANG」「MANT」といった銘柄群も含め、IT業種の株価全般に高値警戒感が強まったため、利食い売りが広がったという面もあろう。またIT企業の実効法人税率はすでに低めであるため、法人減税のメリットが少ないと言われる一方、金融株は現在の実効法人税率が高く、IT売り・金融買いが進んだとも推察されている。

日本でも、米国につられ、一時は半導体関連銘柄が売られ、メガバンク株が買われた。また資本財(設備機械等)の輸出実態の改善をはやして上昇していた安川電機やキーエンスなどの銘柄も、業績が株価に相当織り込まれたという理由から売られ、食品、小売、陸運、情報通信など、内需株を買おう、という動きも強まった。だが、再び先週途中から、IT株や半導体関連株が大きく買い戻されるなど、巻き戻しも急だった。このような「目まぐるしい物色の変化」からは、買うべき柱が確立しておらず、右往左往している投資家の実態が垣間見える。

どうやら、今週も内外株式市況全般も、物色動向も、引き続き方向感が薄く、荒っぽい動きが続くと懸念する。今週の日経平均株価は、高値波乱が続くとみて、2万2400~2万3000円を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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