バス業界の風雲児、規模拡大の裏に別の狙い 地方バス会社を相次ぎ買収する「みちのりHD」

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2012年にみちのりHDの傘下に入った関東自動車では、「大谷観光一日乗車券」が人気商品だ。バスの車内は土日どころか平日も観光客でにぎわう。このアイデアは福島交通の企画商品が元になっている。

大谷地区は大谷石の採掘現場や日本最古の石仏「大谷観音」など見どころが豊富にあり、大谷資料館の入場料、大谷観音の拝観料、バス往復代金をセットにして1500円(現在は1680円)で発売した。別々に購入すると1900円(同2100円)かかるので400円(同420円)おトクだ。

「大谷観光一日乗車券」のヒットについて話す関東自動車の吉田元・専務(記者撮影)

大谷地区を走る路線バスはかつて週末を中心に利用者が低迷し、「いずれ抜本的な手を打つことも検討しなければならないと考えていた」と、吉田元・専務は振り返る。一日乗車券のヒットで、この路線は息を吹き返した。減便の可能性すらあった路線は増便にしないと客をさばききれないほど。今ではグループ各社が、ヒットの理由を聞きにやってくるという。

自動運転の実証実験にも参加

グループ傘下の茨城交通は11月19~25日に常陸太田市で行われた自動運転サービスの実証実験に参加している。ヤマハ発動機の7人乗りカートが近隣住民を乗せて規定ルートを自動走行し、高速バスの停留所まで運ぶ。地方では免許を持たない高齢者がどんどん増えていく。そうした人々の交通手段として自動運転車両は救世主となりうる。この実証実験で茨城交通が得たノウハウはグループ各社に共有される。

もちろん、グループ内での情報交換がつねに有効というわけではない。みちのりHDには福島市の福島駅と飯坂温泉を結ぶ飯坂電車(福島交通飯坂線)や湘南モノレールといった鉄道路線もある。ただ、ローカル線の電車と首都圏のモノレールでは、あまりにも性格が異なり、営業施策やメンテナンスの共通点が少ない。なかなかシナジー効果の発揮にはつながらないようだ。

日本国内の路線バス事業者(保有台数30両以上)は減少傾向にあるが、それでも事業者数は民間、公営合わせて200を優に超える。3分の2の事業者は赤字経営に苦しむ。赤字事業者の大半が人口減少に直面する地方に位置することを考えると、バス事業者の数は今後も減り続けるだろう。スケールメリットや情報共有化によるみちのりHDの効率経営は、バス事業者の生き残る方策を呈示している。バス業界では今後、集約化の流れが本格化するかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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