バス業界の風雲児、規模拡大の裏に別の狙い 地方バス会社を相次ぎ買収する「みちのりHD」

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みちのりHDが設立された後、買収第1号となった福島交通を例に見てみよう。この会社の経営改善の取り組みは、その後グループ入りした会社の手本になっている。

ICカード導入の意義について語る福島交通の武藤泰典社長(記者撮影)

福島交通がまず着手した改革は2010年のICカード導入だ。今どき、ICカードを導入するバス会社は珍しくないが、「ICカード導入自体が目的なのではなく、ICカード導入によって可能になる新たなサービスをどのように経営改善につなげるかが重要」と福島交通の武藤泰典社長は話す。

たとえばICカードのデータを使えば、客がどこで乗車し、どこで下車したかがわかる。同じ路線でも需要の多い区間と少ない区間がはっきりと見えてくる。これを運行ダイヤに反映させれば、収益向上とコスト削減を同時に実現できる。実際、福島交通では、ICカードのデータを使って十数カ所のダイヤを変更したという。この事例はグループ各社に紹介され、ICカードを導入する際、データの活用法を考える参考になっている。

定期券の出張販売も

一方で、福島交通が他社の事例を参考にしていることもある。それは福島交通に続いてグループ入りした茨城交通が行う「定期券の出張販売」だ。

高校や大学の入学シーズンに合わせ学校に出向き、新入生に定期券を販売する。福島交通でも以前から取り組んでいたが、「それほど力を入れていなかった」(武藤社長)。しかし、茨城交通が成功しているという話を聞き、「これはあらためてやってみる価値がある」と、取り組みを強化。訪問していない学校をリストアップし、社員が学校に出向いて生徒に定期券の申込書を配布する。効果はてきめん。少子高齢化で減少中の通学定期利用者は、回復とまではいかないものの、減少ペースが緩やかになった。

グループ内での他社との連携はコスト削減に大きな威力を発揮する。福島交通では作業員1人当たりの修繕費が高いという問題があった。そこでグループ各社で協議したところ、部品交換のタイミングが一定の期間ごとだったり、走行距離に基づいていたりと、各社でまちまちという実態が浮き彫りになった。「あくまで安全の確保を大前提に」(みちのりHD)、グループとしてのスタンダードを作成してバス1台にかかる部材費を削減。また、工程表を導入して作業単位で人数や所要時間を計測したり、全員の1カ月間の業務時間を調査したりして、徐々にムダを取り除いていった。その結果、福島交通では整備コストを25%削減でき、年1億5000万円の収益改善につながったという。

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