《不確実性の経済学入門》「200年住宅」はどうしたらできるか?

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《不確実性の経済学入門》「200年住宅」はどうしたらできるか?

築100年以上の住宅が資産として通用する欧米。これに対して、日本の住宅は30年ほどで壊される。政府や業界は長寿命の「200年住宅」の普及策を始めたが、どうすればうまくいくだろうか。

日本の場合、長寿命住宅の障害となるのが地震だ。東京の場合、地震による被害のリスクが高い土地は、低い土地より地価が5~10%安くなっている。これは実際に地震が発生する可能性からすれば、リスクプレミアムが過大に評価されている。

ところが、人は耐震改修で地震リスクを引き下げることについては、逆に過小に評価していることが多くの実証研究でわかっている。地震リスクの水準は過大に評価し、その引き下げは過小に評価しているのだ。

カギとなるのは、行動経済学で解明が進む人のリスク認知の歪みだ。

下のグラフは、人が確率をどう認識するかを示した認知確率関数だ。横軸が実際の確率で、縦軸が人に認知される確率。もし人が実際どおりに確率を認知するなら、それは青線のように表される。ところが、行動経済学の研究によれば、人は低い確率については実際より過大に評価し、高い確率は逆に過小に評価する。つまり、赤線を描くのだ。

低い確率の過大評価は、当たりもしない宝くじを買ったり、BSE(牛海綿状脳症)やダイオキシンに大騒ぎすることからもわかる。同様に、人は確率の低い地震リスクを高く評価する傾向があるというわけだ。

一方、その低い確率(リスク)を引き下げるとき、人の心はどう感じるのか。それはちょうどグラフのA点からB点に確率を下げるのと同じだ。赤線では、水準は過大に評価されているが、変化(曲線の傾き)は実際の確率の変化より緩やかに認知されるのだ。それだけ地震リスクを引き下げた実感は湧きにくい。またこれとは逆に、人はリスクを引き上げることは極端に回避しようとする傾向があることもわかっている。

住宅メーカーはこうしたリスク認知の歪みを利用して次のようなメニューを提示することができる。

【1】最低限の建築基準に見合った耐震性の住宅を標準仕様とし、建築基準から耐震性をワンランク高めるオプションも提供する。

【2】低限の建築基準からワンランク高い耐震性の住宅を標準仕様とし、耐震性を建築基準に低めるオプションも提供する。

双方とも建築基準に見合った耐震性の住宅は2500万円、ワンランク高い住宅を3000万円とすれば、【1】も【2】も消費者にとっては本質的に変わらない。しかし、先のリスク認知の歪みから、人は【1】では建築基準に見合った住宅を、【2】ではワンランク耐震性を高めた住宅を選びやすい。業者にとっても消費者にとっても、行動経済学を基に選択肢の設計を工夫する利点は大きいだろう。


(週刊東洋経済)
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