英メディアが日本の衆院解散を酷評した理由 これは「野党混迷」と「北朝鮮危機」への便乗だ

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弱い野党と北朝鮮危機で大勝を目論む安倍首相にもリスクはある、と英メディアは指摘する。それは、ライバルとなる小池氏の存在だ。

先の日経の世論調査では大部分がまだ支持政党を決めていないという結果が出ており、これが小池新党に流れる可能性があるからだ。

「安倍vs.小池」のドラマ

日本のメディア報道によれば、小池氏が代表に就任する「希望の党」は候補者集めに苦心しているという。準備期間が少ないだけに先行きには不透明感が漂ってくる。

それでも、安倍首相が衆院解散を表明する数時間前に会見を開き、希望の党立ち上げ発表で話題をさらった小池氏の見事なメディア戦略には一目を置かざるを得ないのではないか。

フィナンシャル・タイムズ紙の26日付けの報道

英メディアも小池氏の動きに注目している。FT紙は「高い支持率を背景に楽勝できると安倍首相が思っていた総選挙には、安倍政治に対する国民投票の意味合いがあった」が、小池氏の登場で「日本の最もパワフルな2人の政治家の闘い」になったという(26日付)。

小池氏自身が大きな賭けに出た、という見方もできる。全国規模の選挙戦を展開できるリソースがあるのかどうか、そして都知事でありながら国政政党の代表になるということで現職を軽んじていると考える国民が小池氏を「許す」ことができるのか。そこが大きな課題である。それでも、小池氏の新党発足宣言で今回の選挙に「ワクワク感」が出たのは確か。すでにメディアは「安倍vs.小池」のドラマを日々、報じるようになった。この点を「安倍首相には誤算だったのではないか」とFT紙は指摘する。

元衆議院議員である小池氏は環境相、防衛相を歴任後、昨年夏、都知事選に立候補し、大勝した。今年になってからは「都民ファーストの会」という名の地域政党を立ち上げ、都議選で圧勝させた。小池氏はこの成功体験を「国政で繰り返そうとしている」(FT紙)。

「反体制」の姿勢を取る小池氏は反原発派でもある。同じく反原発派の小泉純一郎元首相の支持も取り付けており、安倍首相からすれば手ごわい相手となっている。安倍首相は25日の記者会見で小池氏との対決姿勢を避けた。「希望と言うのは良い響き」「安全保障、基本的理念は同じ」、五輪を成功させるなど「小池知事とは共通の目標を持っている」などと述べた。一方の小池氏は今回の解散総選挙を「安倍ファースト」、つまり自分の政治予定を優先した選挙だとバッサリ斬っている。

都知事の職を全うしていないと感じる国民が多ければ、「安倍首相は胸をなでおろし、民進党粉砕に力を注げる」が、もし小池ブームが大きくなるようだと、「政権存続が危うくなる」とFTの記事は締めくくっている。

現時点では最大野党である民進党が存在感を失いつつある中では、「安倍vs.小池」のドラマを国民がどのように受け止めるかが、この選挙の最大の焦点になりそうである。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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