ドラッグストア再編を促す改正薬事法の衝撃度
ドラッグストア業界の再編が加速している。背中を押すのは来年春ごろ施行予定の改正薬事法だ。現在、大衆薬は副作用リスクに応じて第1類~第3類に分類され、販売できるのは薬剤師だけ。だが、改正法は薬剤師不足の解消を視野に入れており、第1類以外は新たに資格として設ける「登録販売者」が販売できるようになる。すでに関東を皮切りに資格試験が始まっている。
従来、薬剤師しか販売できなかった大衆薬をより取得が簡単な資格だけで売れるようになることで、色めきたったのがスーパーやコンビニなど異業者だ。大衆薬はもともと「消費者のニーズが高い」(ファミリーマート商品本部の田中将彦マネジャー)とあって、コンビニなどは長らく規制緩和を求めていた。
ファミリーマートは都内に実験店2店舗の出店を決め、今後3年間に自力で300店舗にまで増やす予定。ヤマダ電機も既存店舗で医薬品販売を始めるなど、「どの業種が参入してもおかしくない」(大手ドラッグ幹部)状況となっている。
業種をまたぐ提携 販売人員の確保がカギ
とはいえ、改正薬事法が「ドラッグ対コンビニ」という単純な対立構図を招く可能性は低い。むしろ、ドラッグや調剤薬局、スーパーなど業種をまたいだ提携が加速するというのが大方の見方だ。そこで“台風の目”となるのが登録販売者である。厚生労働省は資格取得の条件として、薬剤師の下での1年間以上の実務経験を課している。つまり、コンビニの従業員などが気軽に資格を取得することはできず、大衆薬の販売には人材確保が大きな課題となる。
「予定調和のコンビニ外し」。資格取得条件の発表直後、コンビニ業界はトーンダウンしたが、ここへきて人材確保に向けドラッグ側へ歩み寄っている。今月初めにはセブン&アイ・ホールディングスと調剤最大手のアインファーマシーズが資本提携を発表。大手ドラッグも「いろいろお話はくる」と明かす。
“迎え撃つ”はずだったドラッグ側にも提携は必至と見る向きがある。日本チェーンドラッグストア協会によると、07年度のドラッグ業界の市場規模は前年度比6・2%増と成長しており、店舗数もうなぎ上り。しかし、1店舗当たりの売上高の伸びは鈍化傾向で、オーバーストア状態が指摘される。企業数も街中の薬局から私鉄沿線チェーンなどあまた存在し、最大手のマツモトキヨシでさえシェアが10%に満たないほど市場は混沌としている。
こうした状況下で、ドラッグ業界内ではすでに再編が始まっている。昨年には大手のセイジョーとセガミメディックスが経営統合。静岡地盤の高田薬局もウエルシア関東に身売り。大株主イオンの反対で破談に終わったが、CFSコーポレーションはアインとの統合を目指した。大手が一様にM&Aに意欲を見せる一方、財務体力のない中小チェーンもここぞとばかりに身売りに励んでおり、「価格のうえでは完全な売り手市場」(大手ドラッグ関係者)。
加えて改正薬事法が施行されることで、ドラッグ各社は登録販売者の人件費高騰を懸念している。業界は現在、深刻な薬剤師不足の状態にあり、大衆薬を扱える登録販売者の大量確保を望んでいる。しかし、コンビニなども交えた人材の引き抜き合戦が起こると、1人当たり3万~5万円の「手当」の上乗せも出るとみられる。資格教育費も含めると人件費が膨れ上がり、中小はより厳しい状況に追い込まれる。