借金1億円の旅館を再興させた若女将の執念 逆に投資を拡大、我が身を削るPRも生きた
更なる借金を抱えた若女将がまず着手したのは、露天風呂の設置。旅館のある安来市は、もともと中国地方有数の温泉地だが、長年にわたり地元の常連客だけを相手にしていたこの旅館は、宿泊施設にお食事処が併設しているだけのシンプルな設計。若女将は「露天風呂を作れば、旅館の売りになるに違いない」と考えた。
ただ、この計画の実現にはひとつ大きな壁があった。
「新規開拓したい嫁」と「得意客を守りたい姑」
「それは認めません。これ以上、借金を増やしてどうするおつもり?」(大女将)
そう言って反対したのは、夫の母親である大女将。そう、若女将になったとはいえ、当時の経営責任者は大女将である浩三さんのお母さん。大女将の承諾なしでは、事を進めることは許されない。借金をめぐる、嫁姑バトルの勃発だった。
「大女将は『大きく変える必要はない。大きく変えると旅館を愛してくれているお客様が残念がられる』と」(美香さん)
それでも美香さんの懸命な説得が実り、大女将は譲歩した。
「そこまで言うならやってごらんなさい。そのかわり、責任はキッチリとってもらいますからね」(大女将)
4000万円の借金が7800万円に
「はい。必ず結果を出してみせます。」(美香さん)
こうして、老舗旅館には新たに露天風呂が設置された。この時点で旅館が背負った借金は当初の4000万円から7800万円に。そして、「私の手で旅館再建を」と意気込む若女将の勢いは止まらない。ここでさらなる借金に手をかける。キッカケは、夫の何気ない一言だった。
「最近、隣の美術館、外国人のお客さんが多いね」(浩三さん)
若女将が狙ったのは、外国人観光客の取り込み。実は旅館の隣には、足立美術館という知る人ぞ知る観光名所がある。実はこの美術館、特にその庭園が美しいと称され、海外の雑誌が選ぶ「日本庭園ランキング」で14年連続1位に選ばれるほど。年間50万人以上の観光客が訪れているにもかかわらず、それが旅館の集客に繋がっていなかった。
美香さんは、その外国人観光客を旅館に取り込むべく、旅館の内装を外国人観光客が好む「和モダン」にリノベーションすることを提案した。ところが、またも大女将の反対が立ちはだかる。美香さんは「大女将と私は旅館を大事に守っていきたい気持ちは一緒だ」と唱え、衝突しながらも反対を押し切って旅館の改装に着手した。
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