モバホ清算で露呈、東芝「西田流経営」の綻び 800億円もの損失を計上

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そもそも、モバイル放送が82億円もの営業赤字(前期実績)を垂れ流している理由を分析すると、大半が米大リーグ野球中継などのコンテンツ購入費や、受信端末の値引き負担だった。会員数が100万を超えなければ採算ラインに乗らないビジネススキームであり、固定費があまりにも大きかった。

一方で、インフラコストは韓国のSKテレコムと共同運用している衛星の管制費用が年3億円(うちモバイル放送の負担分は2億円)、放送センター運営費など合わせて約30億円である。一般向け放送から撤退し、防災放送など公共利用、船舶向け放送などに専念すれば継続の可能性を探れるというのが中長期方針だった。「莫大な累損解消は無理だし、次期衛星打ち上げの議論も難しい。しかし、今の衛星が利用可能な2016年ごろまで放送を継続しなければ、これまでの投資が無駄になるだけ」(モバイル放送関係者)。

にもかかわらず、東芝の撤退意向は強かった。7月22日に東芝は野村不動産へ東芝不動産株を売却し約700億円の特別利益を計上すると発表。モバイル放送清算も同時発表し、株式市場には利益と損失でバランスを取っている印象を与える予定だった。

気象協会の要望には無視を決め込む

しかし、放送停止決定が近いことを非公式に聞いた日本気象協会は猛反発した。「7月22日に東芝の谷川和生取締役執行役専務らと面談し、『公的な役割を担い、人命にもかかわる防災放送は存続を前提にした道筋を立てるべき』と訴えた」(日本気象協会防災プロジェクトリーダーの原田恒夫氏)。東芝は発表のタイミングを29日まで延期したものの、方針を変えることはなかった。

もちろん、東芝は防災放送などの新事業へシフトしたところでモバイル放送の黒字化は無理と判断したのだろう。であれば、気象庁など公的機関への事業譲渡などを真剣に検討するのが筋だが、そうしたコミュニケーションをとった形跡はない。当然、防災放送の本格導入に向けて予算措置をしていた一部の自治体などは東芝への怒りをあらわにしている。株式市場の受けは抜群な西田流の“スピード決断”だが、一皮むけば、ただの現場との“コミュニケーション不足”なのかもしれない。


(撮影:田所千代美 =週刊東洋経済)

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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