東芝、メモリ売却を巡る「泥仕合」の一部始終 合弁相手の米WDと激しい応酬が続く
しかし、両社の友好関係を揺るがす事態が起きた。
米原子力事業で巨額損失を計上した東芝は、2017年3月期に約5400億円の債務超過に転落。債務超過の解消のために“虎の子”のメモリ事業の売却に追い込まれたのだ。SDにも大きな変化があった。2016年にWDに買収され非上場の100%子会社となった。
東芝はメモリ事業(=事業資産)を子会社の東芝メモリとして分割、東芝メモリ株の過半の売却することを目指してきた。
3月に行われた1次入札には約10の陣営が参加。2次入札には台湾の鴻海精密工業、米投資ファンドのベインキャピタルと韓国の半導体メーカー、SKハイニックスの連合、米半導体大手ブロードコムと米投資ファンドのシルバーレイク連合が進んでいた。
同意なしの出資持ち分移管は「契約違反」
しかし、ここにWDが物言いを付けた。
東芝が東芝メモリに移管した資産の中には当然、合弁の出資持分が含まれる。これに対し、2016年にSDを買収して親会社となっていたWDが、自社の同意なしの出資持ち分の移管は合弁契約に違反すると表明した。一方、東芝は「WDの主張に根拠はない」と真っ向から反論。対立はエスカレートしていく。
「情報漏えいリスクを看過できない」(東芝の綱川智社長)。東芝はWD社員のデータへのアクセスを制限する措置をちらつかせた。両社の関係はあくまでも東芝とSDであるにもかかわらず、SDの親会社というだけでWD関係者がデータにアクセスするのはおかしいというロジックだ。
WDも負けていない。5月15日には東芝メモリの売却差し止めを国際仲介裁判所に申し立てたのだ。同裁判所に持ち込まれた案件としては、独フォルクスワーゲンとスズキの資本提携解消(スズキが勝利)があるが、このときは結論まで4年弱かかっている。
売却を急ぎたい東芝はやや態度を軟化。WD社員の制限措置の実施は見送り、交渉継続で打開を探った。
振り返ると、3月末から4月にかけて政府系ファンドである産業革新機構(INCJ)と米大手投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、そこにWDが加わる連合で東芝メモリを買う交渉が進んでいた。しかし「WDがマジョリティ(過半の出資)を要求したため」(東芝関係者)、この案は一旦霧散した。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら