社長が「捨てられない」と社員は力を出せない その会議や資料、残業は本当に必要ですか

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もうひとつ、捨てるべきことの物差しとなるのが「無駄なことであるか」「無理なことであるか」「むしろないほうがよいことであるか」の3つである。

この3つの条件は「悪条件」だ。3つの悪条件のどれかひとつでも該当するものは、即刻、やめたほうがよい。例えば、残業だ。残業が「無理なこと」で、「むしろないほうがよいこと」という点では、あまり異論は出ないだろう。しかし、無駄とまで言うと反論が返ってくるはずだ。残業した結果、納期に間に合うということもあるのだから、残業が無駄とは言えないはず。恐らく反論はこうしたものだろう。

たしかに残業は、突発的な注文や、急な変更に対応するために必要なことがある。すべての残業が否定されるべきこととは言えない。しかし、残業が生じる原因をつぶさに探っていくと、必ず無駄なことに突き当たる。多くの場合残業の実態は、実は無駄の塊である。残業時間を半減させて、利益を倍増させたことで注目されているIT系のSCSK株式会社は、残業時間を削減する「スマートワーク・チャレンジ・プロジェクト」(通称スマチャレ)の中で、会議の効率化、資料の削減をそれぞれ「1/8会議」、「資料作成1/3削減」として実行した。無駄な会議、無駄な資料を捨てることによって、残業時間を減らしたのである。

私はこれまでずっと、社長、社外取締役という立場から、会議、紙(資料・決裁書類、報告書等々)、コミッティー(委員会)を減らすよう社内に働きかけてきた。SCSKの「1/8会議」、「資料作成1/3削減」は、私のいう会議、紙の削減に相当する。私はこの3つを「企業を駄目にする3K(3つのうちコミッティーの頭文字はCだがローマ字表記で統一した)」と呼んでいる。コミッティーについては、ジョン・F・ケネディ元大統領の言葉が秀逸だ。「コミッティーとはひとりでできることを12人で話し合うことである」。コミッティーの無駄を、こう端的に表している。

トップ自身が勇気を持って捨てるべきこと

捨てるべきことは、トップ自身の中にもある。トップが捨てなければいけないことは、3つある。それは「過去の成功」「過信・慢心・傲慢(ごうまん)」「解決不能の恐れと迷い」だ。「将来の成功を妨げる最大の敵は過去の成功である」という言葉がある。“Success of Revenge(成功の復讐)”という英語もある。社会やビジネスの環境が変化しても、依然として過去の栄光にこだわり続けてやり方を変えない、現実が見えなくなることは経営者にとって致命傷であると肝に銘じておくべきである。

「過信・慢心・傲慢」は経営者自身の内なる敵だ。経営者に自信は必須だが、過信・慢心・傲慢は破綻(はたん)への一本道である。人の話に耳を傾けなくなってきたら、それは過信・慢心・傲慢、ひいては破綻への道を歩き出した兆候と知るべきである。

失敗を恐れる気持ち、決断に迷う心、最終決定をするトップにとって、この2つは常につきまとって離れない。しかし、恐れ、迷いにはどう考えても解決できない場合がある。災害などの天変地異や予期せざる事件、事故、これらに対してリスクヘッジのための備えは必要だが、完全な対策は採りようがない。海外ビジネスでは、為替の変動も経営に重大な影響を与えるが、完全に予期することは不可能だ。こうした人知を超えた解決不能のことや、どうしてもリスクが消えない判断における「解決不能の恐れと迷い」に対する正解はない。神のみぞ知るである。

したがって、最終的には、経営者が70点主義でエイヤッと腹をくくって決めるしかないのだ。また、人は自ら変わることについても怖れと迷いを抱く。環境の変化に対応しなければ生き残れない局面にあっても、なお、現状から変わることに脅かされて恐怖を抱き、変化に踏み切るべきか迷う。こうした恐れ、迷いもトップが勇気を持って積極的に自分の中から捨て去るべきことである。CHANGEのGをCに変えるとすると、そこには新しい「CHANCE」が生まれるのだ。

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新 将命 国際ビジネスブレイン代表取締役社長

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あたらし まさみ / Masami Atarashi

1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなど、グローバル・エクセレント・カンパニー6社で活躍し社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年3月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。「経営のプロフェッショナル」として50年以上にわたり、日本、ヨーロッパ、アメリカの企業の第一線に携わり、いまもさまざまな会社のアドバイザーや経営者のメンターを務めながら、長年の経験と実績をベースに、講演や企業研修、執筆活動を通じて国内外で「リーダー人財育成」の使命に取り組む。

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