契約社員の無期雇用化、雇い止めの対応策は? 来年4月、同じ会社で5年超働けば無期契約に

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雇い止めがおかしいとして裁判を起こしたとしても、無期契約労働者と比べ、救済されるハードルはとても高いのが現状です。本当に不安定な立場と言わざるを得ません。その意味では、無期契約に変わることで、当たり前の権利も主張しやすくなるでしょう。その後、徐々に正社員との待遇改善を進めていくことも、労働契約法の制度設計上予定されています。無期転換ルールとは、まさに正社員化に向けた大きな一歩なのです。

急に「更新回数の上限」ができたら注意

――企業は雇い止めのために、どんな方法をとってくる?

労働者を無期に転換することは、企業にとってもメリットがあります。人手不足が叫ばれる中、良い人材を確保したい企業、労働者の就労意欲に目を向けた企業が、積極的に無期転換ルールを評価しています。中には、法律の定める5年を超える前に導入している企業も数多く存在します。

ところが一方では、無期転換の適用を免れようとする悪質な使用者の存在が問題になっています。最近報道された事案だと、「消防試験研究センター」が無期転換ルールの適用を免れる目的で雇い止め予告をしていたことが分かりました。東京労働局が今年2月に指導し、センターが雇い止めを撤回しています。

企業が採用する際には、「契約上は1年となっているが、長く勤めてくれる方を求めている」などと言って、優秀な人材を募集するのが通常です。消防試験研究センターの事案でも、まさにそのような勧誘が行われた上で、複数回の契約更新がなされていました。

このような場合には、契約更新がなされることに対する「合理的な期待」があると判断されるのが通常です。契約更新への合理的な期待がある場合には、「客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当」と認められなければ、雇い止めは有効とはなりません(労働契約法19条)。

消防試験研究センターが行った雇い止めは、無期転換ルールを制定した意味が無くなってしまうため、客観的に合理的な理由を欠き、違法となるのです。

今後、使用者によっては、5年の到来時(2018年4月)の前に、雇い止めを仕掛けてくる例が頻発すると思われます。消防試験研究センターのように、急に更新回数の上限をつくるというのは、無期転換ルールの適用を免れるための代表的な脱法手段のひとつと言えるでしょう。

――有期契約の労働者は、何に注意したらよい?

使用者は、無期転換を避けるため、という本当の目的を隠しながら、あの手この手で巧みに雇い止めを仕掛けてくるでしょう。契約内容に更新回数に上限がないかなどを契約更新の度に確認し、安易に承諾をしないことが重要です。

雇い止めの予告を受けたり、実際に雇い止めに遭ってしまったりした場合には、まず労働問題に詳しい専門家にご相談いただき、法律に沿った対応をきちんと取っていく必要があるでしょう。

笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「労働時間規制と過労死」(労働法律旬報1831・32号61頁)、「労働相談実践マニュアルVer.7」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)。
事務所名:横浜法律事務所

 

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