AI導入で労働の価値はどう変わるのか 富国生命の保険金査定業務でもAIが活躍

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富国生命の例からいえるのは、AIは人間から仕事を奪うのではなく、むしろ逆に、手間ばかりかかる無味乾燥で退屈な仕事から人間を解放するということではなかろうか。

こうした状況について、アキハバラニュース・エディターのリノ・J・ティブキー氏は次のように、秀逸な論評を行っている。

「業務に使われるロボットや人工知能(AI)ソフトは、いわゆる3D(汚い、危険、屈辱的)仕事を割り当てられることが多い。最初の二つはたぶん富国生命で給付金支払い査定を行ってきた社員には当てはまらないが、最後のDは解釈の余地がある。確かに、保険金支払いに必要な無数のデータを照合したり、分析したりといった作業を楽しんでやっている社員がいるかもしれないが、ほとんどの人にとっては、非効率な文書業務と反復作業が多い退屈な仕事ではないかと思われる」(編集部注:3Dはdirty、 dangerous 、demeaning)

人間と機械をめぐる古くて新しい問い

2015年に邦訳版が出版されたエリック・ブリニョルフソンらの『ザ・セカンド・マシン・エイジ』は、蒸気機関の登場=ファースト・マシン・エイジ(第一機械時代)が人類の急激かつ持続的な飛躍をもたらし、いまや人類はコンピュータをはじめとするデジタル機器の進化=セカンド・マシン・エイジ(第二機械時代)を迎えている、と説いた。

19世紀に英国で起きたラッダイト運動の歴史を振り返るまでもなく、機械や技術の進歩が人間の仕事を奪うのではないか、という人間の恐怖はおなじみのものだ。AI=技術進歩は人間から仕事を奪うのか。この古くて新しい問いは、セカンド・マシン・エイジにおいてそれほど単純ではないことを示している。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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