インド製薬最大手を決意の買収 第一三共が仕掛けるM&Aの新方程式

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鮮明な対比を見せる製薬各社の戦略

製薬各社はこれまで、成長の源泉を米国に求めてきた。世界最大市場であり、先進国の中では人口が増えている。さらに、画期的新薬に高い薬価をつける国でもある。ここでいち早く新薬を販売するうまみが大きいという判断からだ。しかし、米国市場を牽引してきた高脂血症、高血圧など生活習慣病領域での治療ニーズは、既存の医薬品である程度充足されてきた。

一方、ガンなどは新薬での治療ニーズが高いものの、創薬リスクが大きいハイリスク・ハイリターンの分野。また、そもそも新薬事業はある意味「ばくち」的側面が強い。新薬創出の可能性は2万分の1、一つの薬ができるまでにかかる費用は最大で1000億円ともいわれる。治験途中で期待した効果が認められなかったり、重篤な副作用が生じたりしてドロップアウト(候補落ち)するケースも少なくない。莫大な研究開発投資に見合ったリターンを得られるかどうかはまったく保証されないのだ。

悩ましいジレンマを解決すべく、1990年代には大型企業合併が相次いだ。これは、研究開発費を増やすことで有力な新薬候補を次々と生み出すのが主眼だった。あるいは他社の新薬候補を買う、創薬ベンチャーを買う……。それがこれまでのM&Aスタイルだった。しかし、第一三共はそれだけでは持続的成長はなしえないと考えた。その答えが、複数の事業を抱えることでお互いのリスクを打ち消し合う複眼経営だったのだ。

他社に目を転じると、アステラス製薬は新薬事業への特化を進めている。エーザイも新薬主体だが、小規模ながら大衆薬と後発品の事業を併せ持つ。各社の戦略はここに来て鮮明な対比を見せつつある。

ちなみに、第一三共が手にしたもう1枚のカードは、日本国内の後発品への参入だ。医療費抑制を図る政府は相次いで後発品使用促進策を打ち出しており、国内は黙っていても伸びる市場。庄田社長は会見で、第一三共ブランドでの後発品販売はしないとした一方、ランバクシー側は「日本国内でナンバーワンになる」と明言。グループとしてのカードの切り方で、国内後発品企業のM&Aなど大きな地殻変動が起きそうだ。

制度改変の影響が大きい医薬品業界にとって、環境変化に対応できる基盤づくりは必須。舛添憲司・ドイツ証券アナリストは「後発品という新たな事業柱を持ち可能性は広がった。複眼経営は中長期的な市場を見越した、非常に面白い戦略だ」と高く評価する。少なくとも新薬メーカーだからといって、新薬だけに固執する時代では、もうない。今回の国際的大型M&Aは、時代の大きな変化を感じさせるのに十分なインパクトを持つ。


(前野裕香 撮影:玉川陽平 =週刊東洋経済)
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