使用人が見た「ホワイトハウスの日常」とは? 世界最大権力者が住む邸宅の秘密
しかしその努力も空しく、大統領はシャワーの出来に満足しなかった。シャワーは何度も取り替えられ、ある時は実験台になったスタッフが水圧で吹き飛ばされ、熱湯でロブスターのように真っ赤になったという。そしてアーリントンは消防ホースを上回る毎分2800リットルもの水を噴射するシャワーを完成させた。
ジョンソンは新しいシャワーを試すのを楽しみにしていたようだ。スタッフを集め、素っ裸になると無邪気にこう言ったという。「“男のテスト”の準備は出来たか?」
「私が大統領に噴射いたします!」と応じたスタッフに、「ようし、最強のヤツを頼む!」と声をかけジョンソンは勇躍シャワーの前に飛び込んだ。ものすごい水圧で壁に押し付けられた苦痛に耐えかね、大統領は当初悲鳴をあげたが、やがてそれは恍惚の声へと変わったという……。(断じてここも盛っていない。バカみたいな話だが)
以上は『使用人たちが見たホワイトハウス 世界一有名な「家」の知られざる裏側』に出てくるエピソードのごく一部だ。著者はブルームバーグ・ニュースの元ホワイトハウス担当記者。「レジデンス」と呼ばれるホワイトハウスの居住棟でファーストファミリーの身の回りの世話をするスタッフに地道にインタビューを重ね、秘密のベールに隠されたホワイトハウスの日常を初めて明らかにした。
極めて口が堅いことで知られるスタッフの口を開かせた著者の取材力は見事だ。執事やメイド、ドアマンやアッシャー(訪問客の案内や各部門の監督にあたる)、料理人、エンジニア、電気技師、大工やフローリストなど、レジデンスのスタッフの職種は多岐に渡る。彼らはれっきとした連邦政府の職員である。
歴代のファーストファミリーの多くが「ホワイトハウスの本当の住人はレジデンスのスタッフ」と証言するように、彼らはホワイトハウスを熟知するスペシャリストでもある。
しかしそんなスペシャリストたちでさえ世界最高の権力者である合衆国大統領には逆らえない。結局、アーリントンは5年間にもわたってシャワー騒動に振り回され、心労で入院までしたという。
美談でほっこりしている暇はないため
誤解のないように付け加えておくが、本書で紹介されているエピソードはこのような悲喜劇ばかりではない。もちろん美談だってある。むしろそちらのほうが多いかもしれない。ファーストファミリーはレジデンスのスタッフと家族のような特別な関係を築き、4年ないしは8年で名残惜しげにこの特別な「家」を去っていく。
そういった感動的な場面を紹介してもいいのだが、いまの私には余裕がない。なにしろあと幾日もない年内のうちに原稿を仕上げなければならないのだ。美談でほっこりしている暇なぞない。だからそんな素敵エピソードは各自で探していただきたい。
それにしてもこの忙しい年末になんて無茶振りだろう。本当に時間がないのに! 焦る脳裡にふと裸のジョンソン大統領が思い浮かぶ。その顔がいつの間にかHONZ編集長に…… あぁ、そうとうに追い詰められているぞ俺。
すぐさま巨大シャワーを思い浮かべ思いっ切り噴射してやった。編集長が恍惚の悲鳴をあげながら吹き飛んでいったところで、ようやく平静を取り戻した。
やれやれ。これでやっと原稿が書けそうだ。
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