「嫌われ者同士」の選挙戦に映る米国社会の今 なぜ両陣営の支持率は拮抗しているのか

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それは、「『嫌われ者』同士の争い」です。

クリントン氏は、国務長官時代の私設メールサーバの使用が問題になり、彼女のことを「ライヤー(うそつき)」と呼ぶ人たちが多くいます。さらに長年の政治キャリアが、まさに既存の政治家による手垢のついた政治はもういらないという有権者たちの思いと結びつき、どうしてもクリントン氏を支持したくないという人たちがいるのです。同じ民主党の候補者だったサンダース氏の支持者でさえ、民主党候補であるクリントン氏を支持しようか迷っている有権者が多くいるようです。

では、トランプ氏はどうでしょう。「国境に壁を造り、メキシコに負担させる」という発言にはじまり、数々の“暴言”が多少の紆余曲折もありながらずっと続いています。クリントン氏とは逆に、どうしてこんな人が支持を集めるのだろうかと疑問に思う方も多いのではないでしょうか。それが増田氏のトランプ氏の支持者たちへのインタビューによって、さまざまな理由でいろいろな人たちから支持を得ていることがわかります。

たとえば、あるトランプ氏の支持者はこう言います。「彼には、ビジネスマンとしての手腕がある。(略)今の米国には、彼のような経営手腕を持った、現実を直視できる人物が必要なんです」

トランプ氏が大統領になったらどうなるのか

クリントン氏が大統領になれば、同じ民主党のバラク・オバマ大統領の政策を継続する部分が多いと予測されています。では、もしトランプ氏が大統領になったらどうなるしょう。今の社会状況を大きく動かすような変化があるかもしれない。そう思う支持者たちが多くいる。その結果、嫌われ者同士にもかかわらず、支持率の拮抗という事態を招いているのです。

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政治経験が豊富で大統領へ最も近いと思われがちなクリントン氏、暴言ばかりでとても大統領には不向きに思えるトランプ氏。好かれてもおかしくなさそうな候補者が嫌われ、嫌われてもおかしくなさそうな候補者が好かれる状況が、嫌われ者同士の選挙戦を生み出したのです。

ですからまだ今後の討論会次第では、何が起こるかはわかりません。

「米国の一般の人たちの知識や教養のあり方も変化しています」(増田氏)。その国民の意識を知ったうえで、討論会に有権者がどう反応して、大統領が決まっていくのか。その大きな流れを知るためにも、トランプ氏、クリントン氏、そしてサンダース氏の支持者たちがどのように考え、選挙戦がどう動いているかを知ると、米国社会で今起こっていることがより明確に見えてくるのは間違いありません。

小山 晃 編集者

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こやま あきら / Akira Koyama

編集者。週刊書評紙「図書新聞」の編集長を務めた後、フリーの編集者に。「コレクション 戦争×文学」全20巻+別巻1(集英社)の編集をはじめ、インタビューや対談構成などを多数手がける。

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