日本の御家芸に大誤算 簡易型カーナビの猛威
「へえー、こんなコンパクトなのに、カーナビになるの? これだったら欲しいわね」。5月中旬、都内の家電量販店に買い物に来ていた30代の夫婦は、液晶画面に地図を映している手のひら大の電子機器を見て驚きの声を上げた。
休日のドライブや知らない土地の運転に重宝するカーナビゲーション。地図データの拡充や地上デジタル放送の受信といったAV機能強化へと高付加価値化が進む一方で、それと逆を行く商品が、にわかに人気を集めている。それがポータブルナビゲーション(以下、PND)だ。
手軽さと価格の安さ 猛烈な勢いで普及
PNDとは5型以下の液晶画面と地図データを保存する記憶媒体に、フラッシュメモリを搭載した簡易型カーナビのこと。大きな特徴は何といっても手軽さだ。PNDは車内に据え付けるインダッシュ型カーナビに比べ性能面では劣るが、軽くコンパクトで取り付け工事などの煩わしい作業が必要ない。使用する際はダッシュボードやフロントガラスに吸盤で張り付けるだけでよく、取り外して持ち運ぶこともできる。
PNDが消費者を引き付けるもう一つの理由が、価格の安さ。インダッシュ型はおおむね10万~20万円台と高額であるのに対し、PNDは5万円前後と半値以下だ。「インダッシュ型の購入層は男性が中心だが、PNDはこれまでカーナビに関心の少なかった女性や年配者がよく買っていく」(ヤマダ電機LABI品川大井町店店員)と言う。
もともと日本では三洋電機がPNDの販売に力を入れていたが、市場が本格的に立ち上がってきたのは昨年である。カーナビの国内販売から一度は撤退したソニーやカーAV機器大手のクラリオンが市場参入してからだ。さらに、今年に入ると松下電器産業が販売開始したほか、6月には市販のインダッシュ型ナビ最大手のパイオニアも参戦を予定している。
日本ではまだ萌芽期のPNDだが、海外では猛烈な勢いで普及が進んでいる。欧州では2007年に1600万台超、北米でも1000万台超(テクノ・システム・リサーチ調べ)と、市販のインダッシュ型をはるかに上回っている。本格的に登場したのが04年ころだから、その成長スピードたるや驚異的だ。
ところが、である。その製造メーカーに目を向けると、米ガーミン、蘭トムトムといった海外勢が圧倒的な世界シェアを誇り、日本のメーカー名はほとんど見当たらない。もう一方のインダッシュ型カーナビは日本メーカーの独壇場なのに、PNDとなった途端に、日本企業の存在感は雲散霧消してしまうのである。
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