3.3兆円の賭け、孫社長の目線の先にあるもの ソフトバンクが再び挑む主力事業の大転換
「ソフトバンクはモバイルの会社だと思われているが、ここ10年のことにすぎない。本業をがらっと変えてきた。次のパラダイムシフトを牽引する出世魚であり続けたい」(孫正義社長)。
ソフト卸を祖業としながら、展示会や出版、ブロードバンド、携帯電話と、事業転換を果たしてきたソフトバンクグループが、またも大きく舵を切った。7月18日に英半導体設計大手のARMホールディングスを買収すると発表。9月までにARM株を100%取得する。
ARMはスマートフォン向けのSoC(システム・オン・ア・チップ。システムの動作に必要な機能を一つの半導体チップに実装したもの)で世界シェア95%超を誇る。そのガリバーを傘下に収めることで、今後爆発的な高成長が期待できるIoT(モノのインターネット。あらゆるものが無線でつながる世界)向けで断トツの半導体企業になるのが、孫社長の狙いだ。
驚きと賞賛の声が多い
専門家の評価は極めて高い。情報通信総合研究所の岸田重行上席主任研究員は「通信事業者の立場ではIoTのエコシステム(複数企業が有機的に結び付き共存共栄する仕組み)を左右するほどの存在感は出しにくい。IoTではスマホとはケタ違いの通信デバイスが使われるのは明らかで、半導体チップというデバイス領域に足場を持つのは合理性がある」と評価する。
サークルクロスコーポレーションの主席アナリストの若林秀樹氏も「スマホ業界が成熟し、IoTへ変化する場合、垂直統合も有効。通信事業者のソフトバンクが、ARMコアというインフラを支える半導体のプラットフォームを持てば、スマホであれIoTであれ最強」と指摘する。
買収総額3.3兆円は、JTの英ガラハー買収を抜き、日本企業で過去最大だ。中国EC(電子商取引)大手アリババ株などの売却で約2兆円が手に入るので、「これで倒産することはない」(孫社長)。今回の買収で現金は1兆円減るが、11月にはスマホゲーム大手スーパーセル株売却による資金の未入金分が入るほか、通信事業のキャッシュフローも積み上がる。
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