九州新幹線が大地震から早期に復旧した理由 致命傷を負わない「最新の耐震基準」の仕組み

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地震で脱線したのと同型の800系。復旧は素早く行われた(写真:tesshy / PIXTA)

まず、復旧作業の手順についてだが、熊本~熊本総合車両所間で脱線していた800系を移動する作業には慎重を期することとして、可能な線区から順に復旧させることとした。被災を受けていない新水俣以南は比較的短期に復旧が可能となったが、問題は熊本と新玉名の区間だったという。

この区間では、沿線の煙突が倒れこんで来たケースを含めて、防音壁の損傷が数多く発生していたが、それよりも問題になったのは架線の電源区分セクションだった。

熊本駅構内をはさんで南北に同一のセクションが続いていたのである。ということは、熊本以北を復旧させようとして通電をすると、駅の南に当たる脱線事故箇所の架線にまで2万5千ボルトの交流が通電してしまう。事故箇所では、一刻も早く車両を除去すべくクレーンなどを入れた作業を行っていた中で、その箇所の架線に通電するわけにはいかない。

JR九州としては、熊本の復興支援のために、博多~熊本間については仮に徐行運転であっても一刻も早く復旧させたかった。そこで兵藤部長によれば、急遽、熊本駅の地点で電源区分セクションを分ける工事を行ったのだそうだ。

脱線箇所の通過にはまだショックが…

問題は、脱線車両の除去作業だった。4月18日から作業を本格的に開始し、当初は1日で台車1つを線路に戻すのが精一杯という状態だったという。基本的には、全車両が脱線していたとは言え、多くの車軸はそのまま線路に戻せる状態であり、作業は徐々にスムーズに進むようになった。結果的に4月24日には24車軸中の22本までが線路上に戻り、動かせる車両から順に1両ずつ車両所に移動作業も進んだ。

だが、1つの台車だけは損傷が激しく、そのままでは線路上に戻せないことから台車を交換して後の移動ということとなっている。なお、事故車両は6両ともに現在は熊本総合車両所で検証中であり、廃車を免れるかどうかについては未定ということであった。

この脱線箇所だが、JR九州の博多本社での取材後、事故区間を含む九州新幹線の全線に乗車してみた。区間全体には時速70キロの制限がかかる中、脱線箇所に関しては40キロ程度の徐行運転がされていたが、通過時には明らかに軌道から来るショックが感じられ、事故の影響を物語っていた。この区間に関しては、すでに全線で運転が開始されている以上、毎晩深夜の保線時間帯のみを使っての保線作業が続くこととなるが、速度制限の解除にはまだ相当の時間を要するという。

また、この脱線事故現場を含む前後14キロの区間には、当初計画にはなかった「脱線防止ガード」の取り付け作業が行われる。この作業も深夜の保線時間帯しか使えない中、枠型スラブにガードを締結する工事は慎重に進めなくてはならない。そのため、全線で速度制限を解除して本来のダイヤに戻るのは、基本的には今年度末、つまり2017年の3月をメドとしているということであった。

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