巨額の営業外費用や特別損失は格付けにどう影響したか--総合電機5社をチェック《スタンダード&プアーズの業界展望》
日立製作所(BBB+/安定的/A−2)の場合、税引き後当期損益は7873億円の大幅な赤字となったが、フリー・キャッシュフローは89億円の黒字で、純有利子負債は大きくは増加しなかった。現金の流出を伴わない評価性の特別損失の計上(減損処理、繰延べ税金資産の取り崩しなど)などで、株主資本は1兆円以上も大きく減少した。
スタンダード&プアーズは6月9日に、同社の格付けを引き下げた。早期の大幅な業績改善が見込みにくいうえ、中期的には収益構造の強化が見込まれるものの、2010年3月期も厳しい事業環境が続く見通しであるため、収益・キャッシュフローが短期間で本格的に回復するのは困難と判断したためである。一方、2011年3月期以降のキャッシュフローの創出力は回復するとの見通しを踏まえたうえで、1)減損処理の対象となった事業用資産は将来キャッシュフローの創出力にはすでに貢献しなくなっている、2)繰り延べ税金資産の取り崩しの増加は、これまで将来の課税所得の3年分としていた繰り延べ税金資産の計上を1年分に変更したことによる増加--などを踏まえ、現金の流出が限定的であったことも考慮し、格下げ幅を1ノッチにとどめ、アウトルックは「安定的」とした。
現金の流出を伴わない評価性の特別損失の計上によって株主資本が毀損しても、それだけでは、格付けを変更する理由になる可能性は低いとスタンダード&プアーズでは考えている。日立製作所の6月の格下げがそうであったように、これは、評価性損失の計上による資本構成の悪化を考慮しないということでなく、評価減の対象となる事業用資産はすでに将来キャッシュフローの創出力には貢献しなくなっていることを、事業リスクの評価のなかに既に格付け上織り込んでいる場合が多いからである。ただし、その将来キャッシュフローの創出力の見通しが十分であったかどうかについては、過去の業績見通しやストレスシナリオと比較して検証している。
業績の改善には時間がかかる見通し
総合電機5社は低リスク事業にシフトして、中期的には収益安定化の構造改革を進めている。ただ、各社が注力している発電プラントなどの社会インフラ、IT・ネットワークやソフトウェア、情報通信などでは、さらに強固な事業基盤を構築して安定的な利益やキャッシュフローを創出していくにはまだ時間がかかる見通しである。
一方、半導体、デジタル家電、自動車関連など市場が急速に悪化した事業に関しては、2010年3月期も引き続き厳しい事業環境が続く見通しであることを踏まえ、スタンダード&プアーズは、営業外費用や特別損失の計上による一段の財務内容の悪化が続き、各社の信用力上、大きな重荷になる可能性もあることを懸念している。
図2: 国内総合電機各社の主要な財務指標
(左図:営業キャッシュフロー(FFO:運転資金の増減調整前)/ 純有利子負債、右図:純有利子負債/(純有利子負債+純資産)
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