限界迎えた「金満国家」サウジアラビアの実像 「親日王子」の大改革には不安が潜んでいる

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この仕組みが、長引く原油安のために限界を迎えたのではないかとの見方が強まっている。膨大な金融資産を石油収入の減少を埋めるために投げ売りしているからだ。IMF(国際通貨基金)は、このままサウジの経済が改革されないままだと同国の外貨準備はあと5年で底をつくと警告した。

そこで、「改革者」として登場したのが、現国王の息子で、まだ30歳とされる(正確な年齢は不明)ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子だ。昨年1月に父が国王になるとすぐに国防相に就任。4月には国内序列3位(王位継承権2位)の副皇太子も兼ねた。現在は国防にとどまらず、石油関連も含めた経済政策をすべて所管している。

国民に歓迎されている王子の積極性

サウジの王族は米英の大学に留学することが多いが、ムハンマド副皇太子は国内の大学卒で英語はあまり話さないようだ。そんなドメスティックな若者がいきなり大国のかじ取りを担うことになった。ちなみにアニメに関心があり、新婚旅行でも日本を訪れたという日本びいきの一面があるという。

サウジの国防大臣も務めるムハンマド副皇太子(中央、写真:ロイター/アフロ)

すでに経済面では、補助金など歳出の削減や、新たな税金の導入などで原油以外の歳入を拡大する方針が打ち出された。ムハンマド副皇太子は、世界最大の石油企業であるサウジアラムコの上場検討も表明している。上場によって得る資金で新たな産業を振興し、経済成長を加速させる。これまでは社会参加が限られていたサウジ女性を労働力として活用することも検討中だ。

若き王子の積極性はサウジの国民にも歓迎されているらしいが、安全保障面の強硬さには不安の声があがる。ムハンマド副皇太子は隣国イエメンの内戦への介入をリードしたが、その後情勢は泥沼化。最近サウジは同じく混迷を深めるシリアへの地上部隊派遣も検討中だ。これまでの同国の穏健な外交方針とは打って変わった攻撃的な姿勢を、ロシアのメドベージェフ首相が「シリアへの地上部隊派遣は第三次世界大戦の引き金になりかねない」と牽制する場面もあった。

国王のおいである皇太子には息子がおらず、ムハンマド副皇太子はいずれ国王になる可能性が高いとみられている。ただ、王子という称号を持つ人間が5000人はいるというサウジにあって、王座を確実にするためには眼に見える実績が必要だ。そんな焦りから中東情勢をさらに緊張させることは避けてほしいものである。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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