「ブラック校則」は、学校だけの問題ではない

「ツーブロック禁止」「下着の色は白」「靴下の長さは、ひざからくるぶしの3分の1以下の長さ」。いわゆるブラック校則と称される校則が2021年の今でも存在している。外から見れば明らかに時代遅れと感じられる校則でも、見直されないケースは少なくない。仕方のないこと、決まったことだから守らなければならない。でも、それはもしかしたら自分たちの思い込みかもしれない。

校則の是非を問うのではなく、「校則を見直す」というプロセスを重視して、どうすれば自分たちで学校の当たり前を変えることができるのか。そんな問題意識から生まれたのが、19年から認定NPO法人カタリバが行っている「ルールメイカー育成プロジェクト」だ。このプロジェクトでは、生徒が学校に主体的に関わっていき、学校の校則・ルールの対話的な見直しを通じて、生徒の自主性や主体性が育んでいくことを目指している。

それは大きな視点で見れば、生徒自らが問いを立てて考え、アクションを起こすことで学校、そして社会を変えていく試みでもある。このルールメイカー育成プロジェクトを担当しているのがカタリバのディレクターである菅野祐太氏だ。

菅野 祐太(かんの・ゆうた)
1987年生まれ。早稲田大学卒。新卒でリクルートエージェント(現リクルートキャリア)に就職後、在籍中に東日本大震災が発災。会社を休職し、NPOカタリバが運営する被災地の放課後学校コラボ・スクールを岩手県大槌町で立ち上げた。その後NPOから大槌町教育委員会に派遣、教育専門官として行政支援を担当。現在は大槌高等学校でのカリキュラム開発や地域協働の仕組みづくりに携わっている。文部科学省 コミュニティ・スクールの在り方等に関する検討会議委員。大槌町教育専門官。認定NPO法人カタリバ ディレクター
(写真:カタリバ提供)

「ブラック校則に関しては、その多くが学校側に対して批判が行われますが、ただ批判するだけではブラック校則はなくならないと考えています。というのも、ブラック校則においては、社会の空気や生徒たち自体のありようが変わってきているにもかかわらず、昔の校則を見直していく文化が、そもそも学校空間にはないということ。それが大きな問題の1つだと考えているのです」

菅野氏は11年の東日本大震災をきっかけに横浜から岩手県大槌町へ赴き、現在はカタリバのディレクターであると同時に、県立大槌高等学校カリキュラム開発専門家、大槌町教育専門官として教育行政の支援を行っている。具体的には震災で人口が流出した学校を復興するために、職員室に週5日勤務しながら、探究の学びなど学校教育を魅力的にするための新たな設計に携わる。こうした取り組みを経済産業省が評価し「未来の教室」実証事業として採択されたことで、今回カタリバで菅野氏が新たにルールメイカー育成プロジェクトを担当することになった。そんな菅野氏は、ブラック校則についてはもっと大きな問題があると指摘する。

「私たちが感じるのは、ブラック校則だといって、社会が学校を批判することが正しいことかどうかということなのです。時代にピントが合っていない校則がそのままになっているということは、たしかに学校内の課題ですが、一方で、これまで学校側にさまざまな要請やクレームをしてきたのは、社会の側であるという点も見逃せないと考えています。学校側は社会の批判を避けるために、どうしても厳しいルールを作らざるをえなくなってしまった。そうした背景も考えれば、問題は学校だけでなく、社会の側にもあるのではないか。そのような広い視点で考えなければ問題は解決しないと考えています」

「こんな学校に通いたい」から校則を作っていく

校則を見直す際、例えば生徒側がブラック校則だと批判して変えていく方法もある。しかし、この場合、「学校VS生徒」という対立構造が生じる恐れがある。そのため、カタリバでは違うアプローチを採っているそうだ。

それは、学校現場にいる当事者たちが集まり、議論をして問題を解決していくことで、校則を見直していく方法だ。ルールメイカー育成プロジェクトでは、校則を見直したいと考えている学校に出向き、校内で対話を重ねる文化をつくり、校内で継続できる体制を整える、その一連のコーディネートを行う。

現在、カタリバでは、「ルールメイキングを行いたい」という学校を独自に募集。名乗りをあげた全国の中学高校11校に対して、社会人経験があり、実績のある外部のルールメイキングコーディネーターを派遣し、それぞれで校則見直しのプロジェクト推進をサポートしている。

それらの実施校の中から、全国の学校で参考になるような事例をまとめて、教材化する取り組みも行っている。

ルールメイキング実証事業校でのワークショップの様子
(写真:カタリバ提供)

「教材の内容についても、カタリバでは対話を大事にしているので、生徒たちが自分の意見を議論のテーブルに載せて話し合うにはどうすればいいのか、そのファシリテートのやり方や、校則のメリット、デメリットを考えていく方法論などを提供していきたいと考えています。いわば、生徒たちに気づきを与えるためのツールを提供しようとしているのです」

プロジェクトを開始してから2年近く。具体的にどんな動きがあったのだろうか。

「例えば、ある学校で、生徒たちが校則を変えたいと先生に提案したとき、生徒たちは、自分たちがわがままと思われるかもしれないと危惧したそうです。彼らが実際に変えたかった校則は靴下の色を自由に選べること。そして、ツーブロックを解禁してほしいということでした。生徒から相談を受けた私は、それならば、いきなり校則について先生に提案するのではなく、こんな学校をつくりたいという提案をしたらどうかという話をしました。そこで出来上がったのが『生徒宣言』です。誰もが通いたくなる学校をコンセプトに『生徒宣言』を作り、その中に校則の変更について盛りみました。そうすることで、先生たちと校則検討委員会を立ち上げることになり、生徒と先生が議論をする場が生まれたのです」

そこで浮き彫りになったのが、そもそもブラック校則とされている校則が、先生の善意や保護者の願い、社会からの要請でできたということだった。例えば、そもそも「ツーブロック禁止」という校則ができたのは、就職面接の際に「ツーブロックだとだらしない」と見られるかもしれないという思いから出来上がった。しかし、実際はどうなのだろうか。保護者にはアンケート、企業にはヒアリングを実施しようと生徒側は提案。その結果、「むしろツーブロックは清潔感がある」という声が多数だったことを受け、最終的に校則が変更されることになったという。

「そこで生徒たちが得たことは、1つの視点からのみで考えることや、結論を出してはいけないという気づきでした。物事を考えていくには複数の視点が必要であり、そうでなければ本当の正しさは見つけられないということです。先生たちからは、主体的に発言する生徒が増えたという嬉しい声も挙がりました。最近の生徒たちはSNSの影響もあるのか、自分のことを表現するのに不安に思う傾向があり、今回校則を考えることで生徒たちが成長するきっかけにもつながったそうです」

「校則作り」は社会の縮図でもある

今も全国の学校で残るブラック校則。時代遅れと社会から批判される中で、生徒たちだけでなく、先生たちからも校則を見直していく動きがある。これから、校則を見直し、主体的に全員が学校と関わっていく、学校で先生や生徒、保護者との議論の場をつくっていくためには何が必要なのだろうか。

「生徒たち一人ひとりが自分の内なる声に耳を傾け、こうしたいと思ったときに初めて他者とぶつかることになります。それが社会を生きていくということなのです。そのとき、お互いの意見をすり合わせたり、納得できたりする答えを導き出す力が必要になります。いわば、社会を生きていくためには、ルールメイキングという考え方が重要になってくるのです。私たちが闘っているのはブラック校則ではなく、私たちの思い込みの可能性もあります。その思い込みが対話によって変わっていく。その対話の経験を積んでいくことが何よりも大切だと考えています」

現在、カタリバでは「ルールメイカー育成プロジェクト」において、各自治体の教育委員会とも連携を図ろうとしている。希望があればアソシエイト校として教材やノウハウの提供を受けることも可能となっている。――どうせ変えられない。それはあなたの思い込みかもしれない。興味のある方々はぜひ参考にしてほしい。

みんなのルールメイキングプロジェクトはここから

(注記のない写真はiStock)