工学部ヒラノ教授の事件ファイル 今野浩著
金融工学の大家が学部長になっていたら平の(ヒラノ)教授の自称は使えなかったはずだが、大学の生態学を軽妙洒脱に語って著者の右に出る者はいない。ここまで書いて大丈夫かといつも思うけれど、今回は「A教授」「B学部長」と抑えた個所が多く、筆禍事件にはならないだろう。おかげで人名を推測する楽しみが増えた。
出張経費の二重取り、経歴詐称、賄賂、単位略取、セクハラとアカハラ、論文盗作とデータ捏造などといった最高学府にあるまじき犯罪や生臭い人間ドラマの数々が紹介される。あきれ憤慨し笑ってしまう諸事件の背後には、大学に生きる人々の悲哀と大学の宿命が深くかかわっていて、同情すべき余地もあり「制度も問題だね」とつい言いたくなる。理系文系の中間で活躍してきた実績が内容に幅と含蓄を与えており、日本のコンピュータがハード偏重ソフト軽視に陥るそもそもの逸話も面白いし、原発事故と原子力工学の終章も示唆に富む。(純)
新潮社 1575円
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