不登校の生徒が集う「生野学園」、人と深く関わる寮生活が子どもを変える理由 本来の自分を生きるための自由な学びと生活
人と深く関わることで子どもは大きく変わる
高校の開校から36年経つが、寮生活の重要性は今も変わらず、むしろ増しているようだ。その背景には、不登校の子どもたちが抱える悩みや課題の変化があるという。
「以前多かったのは、周りの期待に応えようと頑張ってしまい、疲れて学校に行けなくなるという優等生タイプの不登校です。そのタイプは親との葛藤が強くあり、自室に引きこもる子もいました。しかし、不登校が一般化するにつれて、人と深い関係を築いてこられなかった子が増えてきているように思います。近年、増えている印象があるのは『友達に対しても表面ではうまく合わせてきたけれど、中学生くらいになるとそうした付き合い方では難しくなり、友達関係や部活動などの人間関係でつまずいて不登校になった』というケースです」(篠原氏、以下同様)
だからこそ、必要なのは人と深く関わること、人との関わりを通じて自己形成することだと篠原氏は語る。
「ここに来る子どもたちも、心の奥底では本音で話せる友達を求めているところがあります。そうした付き合いをあえて避けてきたものの、寮生活で人と関わる中で変化していきます。そして、卒業する頃には本音で話せる、卒業後も続く仲間になっていくのです。先輩や友人、スタッフとの関わりを通じて自分の好きなこと、やりたいことが見つかることも多いですね」
ちなみに、ここで言うスタッフとは教職員のこと。生野学園では教員をすべてスタッフと呼ぶ。それは、生徒に知識や物事を一方的に教授する存在ではなく、子どもと対等な立場で関わり、自分自身の生き方を示す存在であるという意味が込められている。寮生活をサポートする職員や事務を担当する職員も、同様にスタッフと呼ばれている。
生野学園の生徒数は中学・高校あわせて約90人。それに対し、スタッフは30人おり、教科を担当する人はその半数ほど。生徒に対してスタッフの数が多いのも特徴的だ。
「子どもたちが本来の自分を取り戻せるよう、生野学園では自主性を大切にしています。重要なのは、本人が素直な気持ちでやりたいことをやれること。とはいえ、自主性を尊重することは、子どもたちを放っておくことではありません。強制はしませんが、『これをやってみない?』といった提案はします。そして、それをやるかどうか、最終的に決めるのは本人なのです」
必要なのは自分をコントロールする力
生野学園の入試には学力試験がない。代わりに実施しているのが体験入学だ。受験生は2泊3日で寮生活を体験し、グループ活動や心理検査、親子面接などを受ける。ただし、これは集団生活が苦手な子をふるい落とすためのものではないという。集団生活には徐々になじんでいけばよいのであり、大切なのは体験を通じて、「この場所が自分に合っているのか」「ここに来たいのか」を本人が確認することなのだ。
子どもの自主性を尊重し、自分の資質に合った自己形成を促す生野学園。では、子どもの自由を尊重する学校の寮生活とはどのようなものなのだろうか。
生野学園には中学校の男子寮と女子寮、高校の男子寮、女子寮がそれぞれある。朝食・昼食・夕食の時間がそれぞれ約1時間半、設けられているが、全員で一斉に食事をするスタイルではなく、約1時間半のうちの自分の好きなタイミングで食事をとるのだ。

















