「1と2だらけ」より「オール斜線」が有利な現実

高校受験を支援する塾講師として、私はこれまで多くの不登校生と向き合ってきた。その中で感じるのは、「不登校でも高校受験はできる」「制度を正しく知れば選択肢は広がる」という事実が、十分に知られていないということだ。

不登校の理由や背景はさまざまだが、ここでは、主に進学意欲のある都内の不登校生徒に向け、進路選択の現実と可能性について考えていきたい。

東田高志(ひがしだ・たかし)
高校受験塾の講師、教育系インフルエンサー
「東京高校受験主義」のアカウント名で首都圏の受験情報を発信。Xのフォロワーは5万4000人(2025年5月現在)に上る。学校と塾の変化を見続け、小・中学生を教えてきた塾講師。フィールドワークとして都内各地の公立中学校や都立高校を訪問し、区議会議員とのコラボイベントも開催
(写真:本人提供)

まず不登校生徒をとくに悩ませているのが、「内申点(評定)」だ。高校受験では、通知表の成績が合否に直結するため大きなハードルになる。

私立高校は各校ごとに特色が大きく異なるものの、併願・推薦・単願といった入試においては、内申点や欠席日数に一定の基準を設けているケースが多く見受けられる。

明確な基準がない場合でも、全日制の私立高校では受験をやんわりと断られるケースもある。一方で、欠席日数の背景にある事情を丁寧にくみ取り、柔軟に対応してくれたという事例もあり、対応は学校によって大きく異なるのが実情である。

中学校側が情報を把握しているわけではないため、保護者が直接、学校の学習相談会などの機会を活用し、事前に確認しておくことになる。その際は、できれば校長などの管理職に尋ね、後々にトラブルのないよう録音などで記録を取っておくことが望ましい。

東京都立高校はどうだろうか。実はすべての都立高校は制度上、不登校生徒の進学の可能性を閉ざしていない。2023年度入試には欠席日数の記入欄もなくなった。内申点の扱いについては、令和7年度の「東京都立高等学校入学者選抜実施要綱」にも記載があるが、いわゆる「斜線措置」と呼ばれる制度がある。通知表に評価がつかない教科は「/」で記載され、評定判定不能とされる。つまり、内申点がゼロになるわけではなく、代わりに入試当日の学力検査の得点などから補完的に判断される。

この斜線措置によって、不登校でも学力さえあれば、トップ進学校の日比谷高校を含むすべての都立高校の門を叩くことができる。

よくあるのが、「少しでも登校すれば成績がついて有利になる」という思い込みだ。不登校生の中には、登校がまったくできない状況から、「午後だけ登校」「テストだけ受ける」といった“五月雨登校”と呼ばれる回復期の段階に入るケースがあるが、実はこうした登校スタイルは、かえって評価上不利になることが多い。

わずかな出席でも内申がつくため、通知表は「1」や「2」の低評価ばかりとなり、都立高校進学に必要な調査書点が大きく下がる。逆に、まったく登校しない状況であれば「斜線措置」が適用され、調査書点の補完によって公平な評価が得られる。

ただし、この斜線措置の運用や理解は学校や教員によって差が大きい。「斜線措置か評定をつけるか選んでください」と保護者に選択を委ねてくれる学校もあれば、「1日でも来れば評価をつける」「斜線は保護者が選べない」と取り合わない学校も。斜線措置の存在そのものを知らないケースもある。

斜線措置に関する対応が各校で統一されていない現状では、学力的に都立高校への進学が可能と見込まれる不登校生徒に対し、「中学校への復帰は控えてください」と助言せざるをえない状況が生じている。

一刻も早く「特別選考枠」の導入と調査書比率の多様化を

こうした内申点を前提とする都立高校の入試制度が、不登校生徒を追い詰めている。「高校で再チャレンジしたい」と希望を持って高校生活を思い描いたとしても、前述のように斜線措置が認められず低い内申点をつけられた場合、不登校生徒は進路の選択肢が著しく限られてしまう。これが今、現場で起きている現実だ。

不登校生徒数が過去最多となる中、制度改革は待ったなしと言える。今こそ都立高校には、調査書点を問わない「特別選考枠」の導入と、調査書点比率の柔軟な見直しを求めたい。

具体的には、一般入試枠の2割程度を、学力検査の得点のみで評価する「特別選考枠」とすべきだ。これは公立の不登校生徒だけでなく、例えば私立中に進んだものの学校が合わず、都立高への転入を望む中学生徒も救われるだろう。一部の私立高では、進学妨害とも取れる極端に低い内申点を出すケースすらあるからだ。

また、発達障害や学習障害など、既存の評価軸に適応しにくい生徒にとっても、現行制度は極めて不利だ。彼らに不登校が多いのも、その力を正しく測る仕組みがなく、入試という一律の枠に押し込められてるからではないだろうか。

さらに制度を硬直化させているのが「換算内申」だ。音楽・美術・体育・技術家庭の4教科の内申が都立高校では多くの場合2倍換算されるため、これらで評価されにくい生徒には不公平が生じる。

都内の不登校生にとって憧れの都立新宿山吹高校は、こうした課題に正面から向き合い、調査書点比率を13%に抑え、多様な背景をもつ生徒を受け入れてきた。ところが、2017年の「制度統一」により、山吹も他校と同じ30%へ引き上げられた。

制度が画一化される一方で、生徒はかつてないほど多様化している。この“逆行”こそ、入試制度の最大の問題だ。先日、私は都民ファーストの会の勉強会で講師を務め、この制度的ミスマッチを訴えた。都議会でもようやく問題意識が芽生えつつある。

入試は本来、排除ではなく選択肢を広げる制度であるべきだ。多様な学びや背景を受け止められるよう、今変わらなければならない。

全日制高校に落とし穴、重要な「卒業できる高校」という視点

では、現状では、不登校生徒は高校選びにおいてどのような戦略を取るべきか。

まず大切なのは、「入学できる高校」ではなく、「卒業できる高校」であるという視点。進学できたとしても、途中で中退してしまっては意味がないからだ。

とくに全日制普通科高校を選ぶ場合は慎重な判断が求められる。実際、3年間で卒業できる生徒と、そうでない生徒に明確な差が出る。

絶対に避けたいのは、定員割れや低倍率を狙って、本来の学力より上の高校に背伸びして進学することだ。無理のある進学で、勉強でついていけなかったり、課題がこなせなかったりで、再度不登校に陥ったという話を聞いている。

進学先は「学力的に余裕が持てる学校」であることが望ましい。入学時に上位3分の1に入れる程度の学力があれば、精神的にもゆとりを持って学校生活を送ることができる。

また、不登校の子どもたちは、フリースクールや適応指導教室など、比較的自由な学びの場で過ごしてきた場合が多い。その反動で、全日制普通科高校に入ると、厳格な生活指導や細かいルールに戸惑い、適応できずに中退してしまうケースも目立つ。

私が相談を受けた過去3年間の中退事例も、こうした指導とのミスマッチが大きな要因となっている。不登校経験者で、全日制普通科高校に進学して問題がなかったケースは、もともと中学にある程度適応していた生徒や、個別のフリースクールではなく集団塾を中心に学んでいた生徒に多かった。

こうしたケースを踏まえ、「合格できるか」ではなく、「ゆとりをもって3年間通い卒業できるか」を基準に高校を選ぶ視点を持つ必要がある。

通信制よりもまず検討したい「定時制高校」

不登校生徒の進路として、まず通信制高校を思い浮かべる人は多いかもしれない。しかし、第一に検討すべきは「定時制高校」だということは、もっと広く知られてよい。

この話をすると、保護者の中には表情を曇らせる方もいる。保護者世代に根強いのは、「夜間に通う」「ヤンキーが多い」「働きながら通う場所」といった定時制に対する古いイメージだ。

だが今、定時制の主な在籍者は不登校経験者である。定時制と通信制を併置する都立一橋高校では、生徒の過半数が不登校経験者だという。私の知人が勤務する別の定時制でも「ヤンキーのような生徒はほとんど見かけず、不登校経験者が中心。皆おだやかで、先生との距離も近い」と話す。

定時制の入試は、ハードルも比較的低い。都立の定時制であれば、学力検査は3教科で実施されることが多い。進路実績も安定している。進路決定率が90%以上の定時制も多く、通信制高校の全国平均(約68%)を大きく上回る。定時制は単に「通える場所」ではなく、「卒業できる場所」として存在感を増している。

最近では、東京都が不登校や高校中退の経験者を対象に設置している「チャレンジスクール」という定時制高校が人気だ。現在7校あり、この春開校した都立立川緑高校の倍率は、最終倍率が2.55倍となり話題となった。その秘密は、学力検査や調査書によらない入試(作文や面接など)をはじめ、柔軟な体制にある。

例えば、午前・午後・夜間のいずれかを選べる「三部制」。午後の部なら13時頃から登校が可能で、朝起きるのが苦手な子や、生活リズムが整っていない子でも無理なく通える。

学びの内容も多様だ。例えば都立桐ヶ丘高校では、福祉・教養、情報・ビジネス、アート・デザインの3系列が用意され、「簿記」「CG」「陶芸」など実践的な科目が学べる。大学進学も可能で、自分の興味や得意を伸ばしながら将来を見据えることができる。

都立高校の魅力を日々発信している東田氏のXアカウント
(写真:Xより)

さらに、都立高は正規教員が多く、指導の質が安定している。また、発達特性のある生徒向けに「コミュニケーションアシスト講座」や「通級指導」なども用意し、民間であれば数10万円はかかる専門的なプログラムを30回以上にわたって無償で提供している。こうした教員体制の安定や公的支援の充実も、都立定時制を選ぶメリットと言える。

一方、私立の広域通信制高校では、非常勤講師が大半を占め、教員の質が不安定なことがある。実際、起立性調節障害のある教え子が広域通信制に進学したが、1年間で担任が数回入れ替わり、継続的な支援を受けることが難しかったという。この学校は芸能人を起用し派手な広告を展開しているが、教育の中身が十分に整っているとは言いがたいと感じている。

文部科学省の調査では、広域通信制高校における不適切な運営の事例が多数報告されたため、質の担保のための施策が検討されている。進路選択に当たっては、そうした動向も注視したい。

このほか東京都には「エンカレッジスクール」という都立高校もある。全日制高校でありながら、小・中学校時代に勉強についていけなかった子たちのために、学び直しの機会を与えてくれる。2人担任制や集中力の持続する30分授業、多様な体験学習などを提供し、軽度の知的障害のある子の入学も多いという。

エンカレッジスクールの練馬工科高校に通うお子さんの保護者によると、積極的に宿題や課題をこなすようになり、自立と自信が芽生えたという。自分と同じような子たちが周りにたくさんいる学校生活がとても居心地がよいとのことだった。全日制高校への進学が学力面で不安があるという子は、エンカレッジスクールの専門学科を回ってみてほしい。

また、この記事の執筆中、嬉しいニュースが飛び込んできた。都立深沢高校(世田谷区)が、新しいタイプの全日制高校として生まれ変わるというのだ。同校は登校時間を午前8時半から10時半の間で選べるほか、オンデマンド形式の授業も単位として認定される。入試制度においては、学力検査と内申の比率を7:3または10:0から、得点の高いほうが自動的に採用される仕組みとなる。不登校の子どもを持つ保護者からは、期待の声が相次いで寄せられている。

入試制度などに課題は残るものの、東京都は公的にも不登校生徒を支える仕組みは徐々に整いつつある。全国でも不登校生徒に対応した施策や学校が次々と誕生しており、選択肢は確実に広がっている。

高校受験に関わる者として強調したいのは、情報をしっかり集めて適切な進路を選べば、不登校は決して将来を閉ざすものではないということだ。

(注記のない写真:Mills/PIXTA)