農業、家、映画、缶詰…アパレルが「畑違い」の領域に進出する訳、もはや「服を作って売る」だけでは限界か?ファッションで培った強みに可能性も

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ただ、「われわれの活動に目新しさを感じる人もいるかもしれませんが、実のところ原点回帰という見方もできます」と分析するのが執行役員ブランディング本部 部長 清宮雄樹さんです。

「うちのコーポレートスローガンが、LIFE TO BE FREAK。もともと、フリークス ストアは平たく言うと自分の好きを集めたお店で、ワクワクやドキドキを誰かと共有したいという想いが原点なんです。

それを“住む”、“食べる”、“学ぶ”に転換すると、必然的にファッションという枠組みでは収まりきらなくなってくる。ビッグトレンドに乗っかってばかりですと、やがては同質化を生みます。僕らが大切にしていることは、好きという熱量です」

フリークス ストアを運営するデイトナ・インターナショナルの活動
左:北九州市にある小倉城天守閣の再建65周年を記念し、昨秋に実施。天守閣への出展や地元出身のお笑い芸人のライブなどさまざまな企画が催された。右上:2023年に京成電鉄とタッグを組んだプロジェクトでは、“幻の駅”、旧博物館動物園前駅にてポップアップショップを開催。右下:住宅ブランドのライフレーベルとのコラボ住宅は、“つながるを楽しむ”をテーマに現在、第2弾まで発表(写真:デイトナ・インターナショナル)

だからこそ、オカルト的なYouTubeを配信したかと思えば、住宅やホテルをプロデュースしたりも。最近、とくに注目を集めたのは映画の配給・宣伝でしょうか。

「映画業界の最前線で活躍されてきた方が外部からジョインしたことで映像事業が立ち上がり、映画の配給・宣伝との2本柱で展開しています。配給のほうでは『バースデイ・パーティー』や『モーターヘッド』といった作品をこれまで取り上げてきました。とくに後者は、24時間、映画を放映し続けるというイベントを大晦日に実施しています。単に話題だからと取り上げているのではなく、カルチャーをよく理解してやっているからこそ、見る人から見ると『熱いね』となるんだと思います」

フリークス ストアを運営するデイトナ・インターナショナルが配給した映画
これまでに『ソウX』、『ヘル・レイザー』、『π デジタルリマスター版』など全14作品の配給・宣伝を実施(写真:デイトナ・インターナショナル)
『スター・ウォーズ セレブレーション』イベントのコラボT
映画に合わせ、関連する様々なアイテムも製作。都度、話題をさらっている。STARWARS EP5 ATAT TEE t-dye ¥12,100/フリークス ストア(写真:デイトナ・インターナショナル)

17年ぶりに国内で開催された『スター・ウォーズ セレブレーション』のイベントにも出展。そこで製作したコラボTがあまりにもマニアックと、海外のゲストや『スター・ウォーズ』マニアを驚愕させました。その熱量はなにも東京だけでなくローカルにまで至ります。

「全国展開しているセレクトショップは、本社を軸とし同心円状に情報や企画が各店へ広がります。そうすると、距離を追うごとに内容が薄くなってしまう傾向がある。ただ、フリークス ストアはもともと茨城の古河でスタートし、周りにいるお客様が求めるものを大事にしてきました。そのスタンスは今も根強く残っています。

各エリアの現場の方々が一定の裁量権を持っているのもそのため。ローカルでの取り組みが増えているように見えますが、そもそもその素地はあったんです。昨今の流れに乗ってやろうとすると、結果、付け焼き刃で終わってしまう。地元に根付いた企業やお店と日頃からいい関係を築いているからこそ成立できているんです」

〈着る!名店スウェット〉プロジェクトはいい例でしょう。さらに、つながりからあらゆるものを巻き込んでセレクトショップの枠を超えた活動になった例はほかにもあります。

〈着る!名店スウェット〉プロジェクト
地元の人だからこそ知っているコーヒー屋さんやパスタ屋さんをターゲットに展開する人気プロジェクト〈着る!名店スウェット〉。そのどれもが、各エリアのフリークス ストアスタッフが実際に行きつけにしているお店(写真:デイトナ・インターナショナル)

「長野県では獣害が悩みの種でした。そこで、ジビエ振興室(当時)の方と共同でジビエ肉の缶詰をふるさと納税の一環として販売しました。その過程で出会ったのが長野の農政部の方。耕作放棄地の課題に悩まれているようで、それをどうにかしたいという想いを聞きました。

その時、たまたま東京のみんな電力さんから再生可能エネルギーを若者に啓蒙したいというご相談もいただいていたんですね。これをうまく結びつけたら何かできるのでは、というところから始まりました。

再生可能エネルギーを求めてくれた人たちからの利用料金の一部をNPOへ譲渡。そこでNPOが耕作放棄地になっているところを耕し生み出した商品を、地元の名産として全国に販売しました。

それがこのシナノポップ。話としては複雑そうに聞こえますが、消費者としては単純に『このポップコーン、美味しい!』でいいんです。食べていく中で実は、というところに気付いてもらえればいい。再生可能エネルギーとは、というところから話すとみんな構えてしまいますから」

鹿肉を使ったカレー缶詰とシナノポップ
左:鹿肉を使ったカレー缶詰。リンゴ(甘口)、バターチキン(中辛)、カシュー(辛口)の3種類を製作。ジビエフリーク ¥780/フリークス ストア 右:フリークス ストアが手がける再エネプロジェクト「フリークス電気」と長野市を拠点に活動をするNPO法人「シナノソイル」のコラボ。耕作放棄地を有効活用した長野県産のポップコーン用とうもろこしを活用(写真:デイトナ・インターナショナル)

昨今、ファッションシーンの変化や市場の変化を肌で感じていると清宮さん。その中でアパレル企業のみが何かをするのではなく、多くの人とスクラムを組んでやることが大切と説きます。

アパレル業界の限界と可能性

近年、ファッションの枠組みを飛び越え、さまざまな団体や人々とつながりながら幅広い展開を見せ始めているアパレルセレクトショップ。その活動を通して感じるのは、アパレル業界の限界と可能性です。洋服を仕入れる、作って売るといったこれまでのビジネスモデルからの脱却は、単にサステナブルが叫ばれる昨今への対応策だけにとどまりません。

これまでファッション畑で培ってきたセンス、カルチャー、多面的な見方などがあらゆる方面で活用でき、それがまた新たなイノベーションやカルチャーの発展を促すカンフル剤となりうることを示しています。それらを念頭に各ブランド、各セレクトショップと向き合ってみるのも面白いかもしれません。

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菊池 亮 エディター・ライター

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きくち りょう / Ryo Kikuchi

1979年生まれ。岩手県出身。地方の出版社にて経験を積んだのち、2006年に独立。東京を拠点にフリーのエディター / ライターとして活動を始め、以後、スポーツ、ファッション、音楽、映画、グルメ、アニメーションなどジャンルを問わず執筆。現在は、MOOK本のエディトリアルや動画のディレクション、オウンドメディアのプロデュースなどを手がける。また、2020年には株式会社KANADELを起業。地方創生を念頭に故郷のプロモーションなどに力を入れている。

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