大学生のレポートで散見される「剽窃」や「思考の放棄」、AI時代に必要な「書く力」の育て方 「文章には正解がある」と誤解する学生は多い
そのためにも、学校現場では、感受性を培う教育を大切にしたい。人は、体験を通して、言葉にならない感動や憤りや願いを持つ。豊かな体験があるとき、人は内面にあるものをどう表現できるかに挑戦できる。
教室では、言葉を獲得する過程を助けたい。新しい言葉を知って初めて自分の内面にあるものに気づくということもある。体験と言葉の往還は、教科や学年を超えて大切にできる指導事項である。
意見文や論説文を書く領域においては、「客観的な理由を述べる」「数字などのデータで証明する」という指導事項がある。これらは「個の想いや意見を基にして文章を発想する」という原則と矛盾するものではない。体験談そのものを書かずとも、固有の体験を基に発想した主張や理由は、説得力を生む。その時に読み手を説得するための技法は多く知っていたほうがよい。小・中・高・大学を通して、「体験」「言葉」「伝え方」をつなぎ合わせた指導をらせん状に行いたい。
体験を「聴き合う」教室や家庭が固有の論点や視点を育む
筆者は、アメリカで博士論文の執筆をしているとき、大学の「ライティング・センター」の常連だった。文章を改善する方法をマン・ツー・マンで一緒に考えてくれる施設である。日本にもあったらよいと思い、2004年に早稲田大学で日本初のライティング・センターを設立した。
ここでは、学生・大学院生・教員を対象に、日本語・英語どちらの文章も検討できるようにした。文章を持って訪れると、訓練を受けた大学院生の文章指導者が一対一で対話をしながら、改善方法を一緒に検討してくれる。まだ書き出していなくとも相談できる。
文章指導者は、文章の背後にある書き手の想いを引き出していく。「~と書くとよいですよ」と書き方を先導するのではなく、「あなたが、この文章で一番訴えたいことは何ですか」「同じような意味で〇〇と△△が使われていますが、2つの語は違う事柄を指していますか」などと質問をし、書き手が自ら文章の問題点や修正方法に気づくようにする。
例えば、商学部学生がレポートを持って来室したとする。
このように、文章指導者の問いかけにより、来訪者は自ら改善点に気づいていく。来訪者たちは、「ここに来ると、自分の考えがだんだん明確になる」と話す。私たちは、自分のうちにある想いや意見を、そう簡単には文章に綴ることができないのであり、他者との対話に助けられて自分の考えをより明確にしたり修正したりできるようになるのである。
そのため、文章指導者の研修では「聴くこと」を練習する。これは教員や保護者にも意識してほしい視点だ。教室や家庭において、教員と学習者、親と子ども、あるいは学習者同士が、互いの体験を「聴き合う」ことを大切にしたい。
「どんなことがあったの?」「そんなこと感じたんだ」という対話は、書き手固有の論点や視点を育む。そのような「聴き合う」教室や家庭が、“自分事”として文章を書くマインドを作っていくのである。社会や自分を見る目を育て、志をもって社会へと羽ばたく子どもたちを育てたい。
(注記のない写真:Fast&Slow/PIXTA)
執筆:早稲田大学名誉教授 佐渡島紗織
東洋経済education × ICT編集部
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら