愛知県西尾市、子どもが「国籍関係なく輝ける」よう15年続ける学内外の支援とは 一人ひとりの可能性を広げる「多文化共生教育」

(写真:川上氏提供)
「子どもたちには、自分らしく自信を持って大きくなっていく権利があります。そのためにも、ご家族への支援を含め、多面的に支えていくことが大切だと思っています。学校外での取り組みなので、必要に応じてすぐ形にできるのが多文化ルームKIBOUの強み。その柔軟さを今後も生かしていきたいと思っています」(川上氏)
子どものうちに、個々の「生きる力」を伸ばしたい
学校内と学校外できめ細かい支援を展開している西尾市。それだけに浮かび上がってくる課題の解像度も上がっている。日本語初期指導教室カラフルの菊池氏は「考える力が伸ばしきれていないと感じる」と話す。
「外国ルーツの子どもたちとの会話は、日本の子どもたちとあまり変わりません。でも、進学や就職などの進路を見ていると、その子らしい生きる道を選べているのだろうかと思うことがあります」
川上氏もこう指摘する。「親御さんが忙しく働いているので、地域の行事などで社会とつながるタイミングがあまり持てないという場合も多いです。高校を卒業した後でどうなりたいのかピンと来ないのは、大学に進学して働いて……と身近にモデルになる人が少ないからかもしれません」。
こうした状況をふまえ、「ロールモデル」を提示する機会も積極的に設けているという。例えば中学校で外国にルーツを持つ親子のための進路説明会を開催し、高校生や社会人の先輩に体験談を話してもらうといった具合だ。
「外国ルーツの児童生徒に対してだけでなく、先生向けにも話をしてもらっています。毎年夏の研修で、かつて小学生・中学生だったとき『こんなことに困った』『こうしてもらえて助かった』という体験を伝えてもらうことで、現場での対応によい影響をもたらしているのではないかと感じています」(菊池氏)
家族や親類といった横のつながりに加え、ロールモデルとなる先輩との縦のつながりを作ることが、教員への良質なフィードバックになっているというわけだ。こうしたつながりを多文化ルームKIBOUなどを通じて地域に広げていきたいと西尾市教育委員会の朝倉氏は続ける。
「日本語教室などを担当する先生方だけでなく、学校全体、そして地域全体へ理解を広げていくことが大切だと思っています。一人ひとりが豊かに生きていけるように、日本語指導だけにとどまらず、人間形成という大きな視野に立った支援を展開していきたいと思います」(朝倉氏)
「多文化共生」は決して簡単なことではない。しかし、15年以上にわたって西尾市で外国ルーツの子どもたちを支援してきた川上氏は「多文化共生は必須」と力を込める。
「『みんなで仲良くしよう』といったきれいごとのレベルではなく、同じ地域の中に住み、仕事をして学んで、ともに年齢を重ねていくわけです。一人ひとりが生きる力、いろいろな困難を乗り越えていく力を子どものうちから身につけることが必要ですので、地域ぐるみで連携して子どもたちを支え、社会に送り出し続けたいと思います」(川上氏)
さまざまな課題と向き合い、地域ぐるみで外国ルーツの子どもたちの未来を支えている西尾市。多文化共生社会のあり方を考えるうえで、重要なヒントを示しているといえそうだ。
(文:高橋秀和、注記のない写真:川上氏提供)
東洋経済education × ICT編集部
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