JR東海リニア「新車両」開発の陰で進む方針転換 静岡工区の教訓「わかりやすい説明」の重要性

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会場の一角にはJR東海のブースがあった。「リニアは川崎市内の地下も通るので、川崎市のJRは緑色(JR東日本のシンボルカラー)だけでなく、オレンジ色もあるということをこのイベントを通じて知ってほしい」(JR東海の担当者)。ブースで展示されるパネルは川崎市内の住民向けの工事説明会などで使用されているものだが、会場の華やかな雰囲気と比べるとちょっと地味な印象だ。「ファンテックラボのブースが盛況だったと聞いているので、そちらを見習わないと」と担当者が苦笑した。

今後もこうしたイベントを行う予定はあるかとJR東海の担当者に尋ねたら、「今のところ決まっているものはない」としながらも、「この雰囲気を見れば、また何かやりたいですよね」。手応えを感じた様子だった。

子どもたちが「リニアの援軍」に

静岡県が県内の工事着工を認めず、リニアの開業スケジュールは大きく遅れている。工事反対の説明の中には「大井川の水は1滴も県外には渡さない」といった言いがかりに近いものもあったが、「JR東海の説明がわかりにくい」という指摘は的を射ていた。もし工事の内容が適切だとしても、住民がその内容を理解できないのであれば、住民の支持は得られない。静岡工区での議論を教訓に、JR東海はほかの沿線でも地域とのコミュニケーションを積極的に行うようになった。さがみはらリニアひろばをはじめとして、工事の様子も地域住民に公開するようになった。ソフト路線への方針転換である。

7月27日にはJR東海と大井川流域10市町の首長との意見交換会が開かれた。今秋から冬にかけて地域住民に向けた説明会を行う意向を首長らに伝えたという。島田市の染谷絹代市長も「お互いの信頼とか理解とかいうものは深まってきているかなと感じている」と応じた。

そして、子どもたちである。子どもたちは新幹線やドクターイエローが大好きだ。それと同様に「リニアが大好き」と思ってくれれば、JR東海にとって力強い援軍となる。

JR東海には子どもたちにリニアの格好よさを伝えるだけでなく、リニアの意義も伝えてほしい。そして、地域住民に工事の説明を行う際、地域の子どもたちにも理解できるような説明をしてほしい。今から10年以上先にリニアが開業したとき、現在の子どもたちは大人になって出張、旅行、あるいは通勤でリニアを頻繁に利用しているかもしれない。自分たちが子どもの頃、JR東海から工事についてわかりやすく説明を受けたことを大人になっても覚えていれば、リニアの乗車体験は感慨深いものになるに違いない。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げ。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に定年退職後の現在は鉄道業界を中心に社内外の媒体で執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京交通短期大学特別教養講座講師。休日は東京都観光ボランティアとしても活動。

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