次期学習指導要領、学校と教員の手に「教育課程づくり」を取り戻すのが最重要課題の訳 現行は「大綱」なのに絶対的な位置付けのなぜ
つまり、学習指導要領を実践するための教育課程は、学校や教員が創意工夫して作成することを前提にしているのだ。学習指導要領を絶対的なものとして位置付け、教育課程も画一的なものとして縛ってきた姿勢が大きく変化したことになる。
「あまりにも工夫がない教育課程のままでは、Society 5.0に対応できる人材を育成できないと、さすがに政府も危機感を覚えたのかもしれません」と、方針が変わった理由を植田氏は説明する。
子どもたちに合った教育課程を編成する力があるか?
2016年1月22日に閣議決定された第5期科学技術基本計画で政府が提唱したのが「Society 5.0」で、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と説明されている。これに対応することは、高度成長期には有効だった学校や教員が創意工夫しない画一的な教育課程では無理だ。
そこで現行の学習指導要領で方向転換を図ろうとしたことになる。ただし、それが着実に実践されているかといえば、そうではないのが現実でもある。植田氏が続ける。
「コロナ禍で児童生徒全員にICT端末が配られることになり、それを使うことばかりに力が割かれてしまい、教育課程を創意工夫してつくっていくことは、残念ながら疎かにされてしまっています」
このままでは、学校は従来の画一的な教育課程のままでの指導を続けることになる。Society 5.0の社会で活躍できる人材を育成するどころか、学校は魅力を失うばかりで、小中学生だけでも35万人にも迫ろうとしている不登校を増やしつづけることになるかもしれない。
「必要なのは、目の前の子どもたちがどうなっているのか、子どもたちをどうしたいのか、そういう教育課程を共有することです。教育課程づくりを、学校が取り戻すことが、いちばん大事なことです」と、植田氏は言う。
目の前の子どもたちの状況は地域、学校によって違っている。だからこそ、各学校が主体となっての教育課程づくりが求められている。問題は、学校や教員がそれぞれの地域や子どもたちに合った教育課程を編成する力があるのかどうかだ。
「独自の教育課程を考えていくのは簡単ではありません。学習指導要領を絶対とする画一的な教育課程に慣れてきた学校や教員にとっては難問かもしれません。しかし考えられない教員になっているのなら、考えられるように研修を保障するなりして実現していく必要があります」
現行の学習指導要領に明記されているにもかかわらず実現できていない学校や教員による教育課程づくりは、次期学習指導要領への、いわば“宿題”である。「次期学習指導要領の改訂作業の中で、もっとも議論されなければならない最重要課題です」と、植田氏は繰り返し強調する。学習指導要領改定に向けた、今後の議論の行方が注目される。
(注記のない写真:buritora / PIXTA)
執筆:フリージャーナリスト 前屋毅
東洋経済education × ICT編集部
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