次期学習指導要領、学校と教員の手に「教育課程づくり」を取り戻すのが最重要課題の訳 現行は「大綱」なのに絶対的な位置付けのなぜ

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「学校での教育活動は、文科省の定めた学習指導要領どおりにやっていればいいという考え方に陥ってしまい、各学校ならではの創意工夫を凝らした教育課程を持たなくなってしまっているのが現実で、そこが問題です」

戦後初の学習指導要領が出たのは1947年3月22日のことで、その改訂版が1951年にでている。それは「学習指導要領 一般編 -試案-」と、「試案」が付いている。今の学習指導要領は学校が必ず教えなければならない「絶対的」なもののようになってしまっているが、当初はそうではなく、あくまで「教育課程の基準」でしかないという位置付けでしかなかったのだ。

その「序論」では、「この書は、学習の指導について述べるのが目的であるが、これまでの教師用書のように、一つの動かすことのできない道を決め、それを示そうとするような目的でつくられたものではない」と断じている。そして、「直接に児童に接してその育成の任に当たる教師は、よくそれぞれの地域や社会の特性を見てとり、児童を知って、たえず教育の内容についても、方法についても工夫をこらして、これを適切なものにして、教育の目的を達するように努めなくてはなるまい」と述べている。

教育の内容や方法は、地域の特性や現実の子どもたちを知っている学校や教員が工夫してつくっていくべきであり、その基本設計を示すのが教育課程だとしているわけだ。それが現在の「一つの動かすことのできない道」を決める学習指導要領になったのは、1958年の改訂で「法的拘束力がある」という解釈を文科省(当時は文部省)が持ち出してきてからのことである。こうした国が教育を支配する体制については、多くの異論がある。

学習指導要領を「一つの動かすことのできない道」にした体制を強化するために、文科省が1956年から開始したのが全国規模の学力調査である。「学習指導要領どおりの教育が行われているかを確かめるためのテストです」と、植田氏は言う。

これは競争激化などが問題となって1966年に中止されるが、2007年から「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)として復活した。その目的は、学習指導要領を絶対とする体制の強化にある。

大学受験でも1979年に「大学共通第1次学力試験」が導入され、1990には「大学入試センター試験」へ、2021年度からは「大学入学共通テスト」へと変わる。名称や制度内容は変わっても、学習指導要領が守られているかを確認するのが目的であることには変わりがない。

現行の学習指導要領は「大綱」でしかない、方針変更の理由

こうして学習指導要領は「一つの動かすことのできない道」という「絶対的」なものとなってきた。学習指導要領が絶対的なものになっているため、これを実現するための教育課程も単一にならざるをえない。「(教員が)たえず教育の内容についても、方法についても工夫をこらして、これを適切なもの」にしていくという最初の学習指導要領の考え方は、どこかに吹き飛んでしまっている。

しかし、「現行の学習指導要領では変わってきました」と植田氏は言う。現行の学習指導要領である2017年7月発行の『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編』を見ると、「学習指導要領は、法規としての性格を有するものとして、教育の内容等について必要かつ合理的な事項を大綱的に示しており」とし、「各学校における指導の具体化については、学校や教師の裁量に基づく多様な創意工夫を前提としている」となっている。

法規としての性格は有しているが「大綱」でしかない、というのだ。「大綱」とは「根本となるもの」で、「これだけがすべて」の「絶対的なものではない」と解釈される。だからこそ、この指導の具体化は学校や教員の裁量に基づくとしている。

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